(2)負荷が大きい仕事―常に緊張感との戦い
仕事上の自分の意思決定権が低く、要求度が高いこの象限は、精神的なプレッシャーが大きいことが特徴です。能動的な象限と違うことは、日々時間や締め切り、ノルマに追われるという仕事の要求度は変わらないものの、仕事の裁量度が少ないことです。
したがって、休みたい時に休めなかったり、仕事の量やペースを自分でコントロールしたりすることができません。また、仕事の意思決定権が低いために、やりがいを感じられない傾向や、仕事へのやる気が低下しがちです。結果、仕事の生産性が下がることになります。
こういったことがストレスとなり、不健康な健康習慣や疾患を生み出します。ノルマのある営業や、レストランのウェイター、ウェイトレス、ガソリンスタンドの店員、工場の作業員、電話のオペレーター、データ入力作業に従事する人などが当てはまります。
この象限は、健康の面では、4象限の中でリスクが最も高いとされています。肉体的な面では繰り返しの作業が多いため、腱鞘炎や腰痛のリスクが挙げられます。精神的な面では、やりがいや自分の存在意義を感じられなくなることで、日々のストレスからの喫煙・飲酒・過食の傾向が明らかになっています。
自分で作業状況を決められないのに加えて、ノルマや時間的なプレッシャーが大きいために、食事の時間や休憩の時間を十分に取れないことも出てくるでしょう。このような環境が、ストレスや不健康な習慣の温床となります。喫煙・飲酒・過食を続けた結果、様々な慢性疾患を引き起こしかねません。特に、心臓疾患のリスクが他の象限に比べて高いことも報告されています。
(3)負荷が小さい仕事―働くことが健康でいられる秘訣になる
この象限は、4象限の中では、一番ストレスの少ない職業です。仕事の裁量度が高く、精神的な要求も低いことが特徴です。ある程度仕事のペース配分を決められるのに加えて、毎日締め切りに追われるようなことも、あまりないことが特徴です。
また、能動的な仕事と同様、自分の獲得した知識やスキルを使って、さらに上を目指せるタイプの職業が多いです。やりがいを感じ、仕事に対してポジティブな気持ちを持てる人も多いでしょう。
建築家やプログラマー、大学の教授、作家、画家などが当てはまります。家庭との両立を含め、働くことで生活のリズムが整い、仕事をすることが健康の秘訣になるくらいの良いバランスが作りやすいのもこの象限の仕事の特徴です。
仕事による病気や事故も、他のどの象限に比べても少ないでしょう。1つ気をつけるとすれば、この象限の仕事は、1人で仕事を行う時間が長く、仕事のペースが緩やかなことから、孤独感や疎外感を感じてしまうことです。
また、この職業でも、例えば建築家でありながら自分で会社を経営していたり、大学教授であっても組織のマネジメントなどの役職についている場合、設計したり研究したりすることに加えて、日常的にこなさなければいけない業務(能動的な象限にありがちな仕事)を行っていることも多いでしょう。
その場合、この要素の特徴だけではなくなるので、違った形のストレスを受ける可能性があります。この象限の職業についている人たちは、仕事以外の部分で積極的に人と関わると良いでしょう。
(4)受け身な仕事―刺激がないことの対価
この象限の仕事は、仕事の裁量度が低く、精神的な要求も低いことが特徴です。仕事の要求が低いために、労働時間の中で、刺激が少ない時間が多くなります。仕事の裁量度も低いため、自分から何か行動を起こすことが難しく、退屈になることが多いかもしれません。シフト制で、夜働く人も多いでしょう。例えば、警備員(特に夜シフト)、会社などの受付、トラックの運転手、配達員、建物の清掃員などが当てはまります。
この仕事は、言葉通り、「受け身」な仕事が多いため、刺激が少ないことがストレスになりやすいです。また、仕事の中での動きも少ないため、長い時間同じ姿勢でいる場合は、腰痛やその他の体の痛みを訴える人もいます。刺激が少ないことで不安やうつになりやすかったり、夜のシフトで働く場合は不眠にもなりやすいでしょう。喫煙や飲酒など、刺激を常習的に求めている人が多いことも特徴です。
この象限の仕事を持つ人は、刺激の少なさを、喫煙や飲酒などの非健康的な習慣で補うのではなく、身体活動などの健康的な刺激で補うことが、健康を保つ秘訣になるでしょう。
(本稿は、林英恵著『健康になる技術 大全』より一部を抜粋・編集したものです)