ストレスと健康は密接な関係にあります。特に、長期間持続する過剰なストレスは、「うつなどの精神疾患だけでなく、高血圧や免疫機能の低下といった身体的な症状も引き起こす可能性がある」と『健康になる技術 大全』の著者・林英恵さんは言います。
本稿では、ハーバード公衆衛生大学院の教授陣から「日本人のために書かれた最高の書」「世界で活躍するスペシャリストが書いた唯一無二の本」と激賞されている、最先端のエビデンスをもとに「健康に長生きする方法」を明かした本書から一部を抜粋・編集して、「病気になりやすい職場」とその対策についてご紹介します 。
監修:イチローカワチ(ハーバード公衆衛生大学院教授 元学部長)
仕事と病気の関係をモデル化
公衆衛生の世界にいると、その人の職業で、だいたいどのような病気になりやすいか、またどのような習慣や行動に注意する必要があるかがわかります。というのも、実は、仕事(職業)のタイプごとに、陥りやすい不健康な行動や病気のタイプを区分けしたとても有名なモデルがあるのです。
このモデルを基に、職業別の特性を踏まえて職場の健康対策をより効果的に組むことができます。また、個人が職場で陥りやすい健康のリスクに、より注意を払うことで、病気になることを防ぎやすくなったり、不摂生をやめる手立てを見つけやすくなったりするのではと思います。
早速見ていきましょう。図表26のモデルは、マサチューセッツ工科大学の社会学者ロバート・カラセック教授が開発しました(*1-3)。職業のタイプを4種類に分け、仕事でのストレスの感じ方を表しました。これは、仕事の裁量度がどのくらいあるか(裁量度が高いか低いか)、また仕事の要求度がどのくらいあるか(要求度が高いか低いかで表現)に基づいて、一般的な職業を4つのタイプに分けたものです。
例えば、仕事の裁量度は、休み・休息時間・仕事のやり方や進め方・その日にこなす量を自分で決められる権限があるかないかを指します。また、自分が学ぶ機会や、能力を試したり活用したりする機会を得られるかも関係してきます。
仕事の要求度が高いかどうかは、日々の仕事を行う「速さ」と「プレッシャー」と考えると良いでしょう。例えば、締め切りまでの間が短く、ペースが速かったり、締め切りに日々追われたりするような仕事などは、要求度が高いです。また、他の人たちのスケジュールの影響を受けやすく、自分のスケジュールの都合をつけにくい場合もこれに当てはまります。
一方で、締め切りはあっても、その間隔が空いていて、自分のペースで仕事を行うことができる仕事は、要求度の低い仕事といえるでしょう。
これらの観点で、仕事のタイプを以下の4つに分けたのがこのモデルです。
裁量度高い・要求度高い→能動的な仕事
裁量度低い・要求度高い→負荷が大きい仕事
裁量度高い・要求度低い→負荷が小さい仕事
裁量度低い・要求度低い→受け身な仕事
このモデルが画期的な理由は、開発された質問票を使い、それぞれの4象限で個人が感じる仕事上のストレスを測定し、病気リスクになりやすい行動や、かかりやすい病気を明らかにしたことです。一つひとつ見ていきましょう。
(1)能動的な仕事―仕事一筋な不養生
この象限の仕事は、仕事の裁量度が高く、なおかつ要求度も高い仕事です。日々締め切りやプレッシャーに追われ、責任も大きいです。よく言うとやりがいが大きいと感じたり、人が憧れたりするような職業が多く当てはまります。
具体的には、会社の社長や幹部レベルの人々、医師や看護師、学校の先生、消防士、エンジニアなどが当てはまります。また、自分でペース配分を決められる裁量度が高い一方で、天候や出荷時期などに左右されやすい農家も該当します。
この仕事の良い面は、仕事を通じて、新しい知識や技術が身につけられることです。それにより、より裁量度の高い仕事につけたり、仕事量をコントロールできるような役職に昇進・転職したりできるので、さらにやりがいや刺激を感じて仕事にのめり込んでいくようになる人もいるでしょう。
日々仕事のやりがいを感じたり、仕事を通じて成長を感じられたりする場合は、仕事からポジティブなエネルギーをもらうことができます。一方で、締め切りや時間に追われたり、仕事や仕事相手に対する責任や時間的なプレッシャーが多いので、常に不安や焦燥を感じたり、気持ちが休まることがない状態になりがちです。
その結果、喫煙や飲酒などの習慣を持つ人も多くなるのが特徴です。仕事にのめり込むがあまり、自分をおろそかにしてしまう人もいるでしょう。医師や消防士などに関しては、病気や事故などの労働災害も起こりえます。