キャリアの研修と面談でマインドセットをサポート
永田 いま、さまざまな企業で「キャリアの自律」が叫ばれています。御社でも、そのような視点から研修体系の変革を考えていらっしゃるのでしょうか?
山崎 おっしゃるとおりです。今回の研修体系の変革の根幹には、「自分のために働け」という弊社のフィロソフィーがあります。この言葉は、決して「自分のやりたいことだけをやれ」という意味ではありません。「自分が描く自己実現や成長、どのように周囲に影響を与えていくか、自分の価値を高め続けているか」という考え方を軸に、自分の方向性を描き、その実現のために自分を成長させていってほしいということです。これはまさに、「自分のキャリアを自分で切り拓いていく」という、いまの時代にマッチした考え方です。
私たち人事部の思いは、「学びを自分で選択できるようになりましょう」ということよりも、「この時代を生き抜いていく力を、この会社で身につけてほしい、そんな従業員の期待に応えられる企業でありたい」というものです。社内に向けては、「キャリアを軸にした能力開発への転換」という発信をしています。
永田 なるほど。単なる学びの機会の獲得という位置づけではなく、キャリアを見据えたものであるということですね。キャリア・多様性推進室が大きな役割を担っているというお話も納得できます。ちなみに、キャリア・多様性推進室とは、どのような役割の組織なのでしょうか?
菊地 たとえば、人材開発課であれば能力開発のスペシャリストが集まっているのですが、私たち、キャリア・多様性推進室は少し違いまして、メンバー自体が多様性に富んでいます。私はIT部門出身ですし、(同席している)小田は新機種のプロジェクトマネジメントを行う部門出身です。それぞれの分野での経験や知識があるので、キャリア面談などでは相手が属している領域の特性を理解したうえで対応できる特徴をもっています。
永田 2022年4月に「多様性推進室」から「キャリア・多様性推進室」に名称が変わったのですね。
菊地 2015年から「多様性推進室」という部署が発足し、女性活躍を皮切りにベテラン層、障がい者、LGBTQなど幅広くダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を進めてきました。そこに今回「キャリア」という言葉が加わったかたちで、現在はキャリア形成支援とD&Iの両方に携わっています。キャリア形成支援で主に推進しているのが、「キャリア面談」と「キャリア研修」です。
永田 その、「キャリア面談」と「キャリア研修」について、具体的に教えていただけますか?
菊地 先ほどお話しした手挙げ式の研修は、スキルを習得するためのものです。それに対して、私たちがキャリアに関してサポートしているのは、「何を目指すのか?」「どういう方向に進みたいのか?」というマインドセットに関する部分。そのサポートのメニューが「キャリア面談」と「キャリア研修」です。
「キャリア面談」はキャリアコンサルタントの有資格者であるキャリア・多様性推進室のメンバーが対応しています。「キャリア研修」は世代別の集合研修で行い、自分のキャリアについて考えたり、考えを仲間同士でシェアしたりしながら深めていきます。「キャリア面談」と「キャリア研修」は両輪で動いているイメージです。
永田 世代別の「キャリア研修」は、どのような内容なのですか?
小田 先の見えない時代のなかで、自分らしいキャリアを実現していくために役立つ考え方を学び、将来のありたい姿を描くことを狙いとしてプログラムを設計しています。変化に柔軟に適応していく考え方として、サビカスの「キャリアアダプタビリティ」やクランボルツの「計画された偶発性理論」、シュロスバーグの「4Sモデル」などをベースに散りばめています。
受講日までに、社会に出てからの出来事や経験を振り返り、強みや価値観を棚卸しする事前課題に取り組みます。研修は3部構成となっており、まずは「自己理解」です。他者からフィードバックを得ながら深めていきます。次に「キャリアの資産」として、自分が持つスキルや自分の成長を促す人間関係資本を把握します。最後は「未来」を描きます。今後の変化を想定して複数の未来の可能性を描き、そのためにどのような一歩を踏み出すのかについて考えます。
対象は18歳から64歳までで、世代別に4クラス、一般・役職に区分すると全10クラスあり、ピットインやアクセルなど、それぞれにホンダらしい名称を付けているのが特徴です。