人・情報・サービスをつなぐコミュニケーションアプリ「LINE」。日本国内の月間アクティブユーザー数は約9500万人におよび、生活を支えるプラットフォームとして欠かせない存在になっている。そして、そのアプリを運営・開発するLINE株式会社においては、サービスの継続&成長を人事・組織面から戦略的に支える「HRBP(HRビジネスパートナー)」が欠かせない存在になっている。HRの水先案内人となる「HRBP」の役割とは? 各事業部のマネージャーに伴走する方法とは? HRBPチームをマネジメントする、LINE株式会社HR Business Partner室の大野道子さんと小向洋誌さんに話を聞いた。(聞き手/永田正樹、構成・文/棚澤明子、撮影/菅沢健治)
LINE社におけるHRBPの存在、果たすべき役割
永田 HRBP(HRビジネスパートナー/Human Resource Business Partner)が存在しない企業もたくさんありますが、御社ではHRBPが必要不可欠な存在となっています。現在、御社には、大野さんたちHRBPのマネージャーが4名、メンバーが12名、計16名のHRBPがいらっしゃるとうかがいました。御社の事業と社員を支えていくには、通常の人事オペレーションを行う方たちだけではなく、HRBPが必要なのですね?
大野 はい。弊社の大きな特徴として、まず、「人事制度の自由度が高い」ことがあげられます。自由であるがゆえに、運用が難しく、社員が事業に集中できるようにする意味でも、また、事業戦略と人事戦略を同期させる意味でも、HRBPという存在が必要不可欠です。また、弊社のもうひとつの特徴として、「ビジネスの立ち上げと、それに伴う組織組成が非常にスピーディである」ということも挙げられます。「顧客へのサービスありき」で動いているので、ともすれば、組織的・人事的戦略は置き去りになりがちです。そういう意味でも、各事業に関わる社員の伴走者として、HRBPが必要になっています。
大野道子 Michiko ONO
LINE株式会社
HR Business Partner室 室長
新卒で不動産業界に入り営業スタートで人事に転換。採用、人材開発から人事全般領域を担当し、人事部立ち上げまでを経験。直近は外資系製薬会社でHRBPとして営業組織を担当。2019年3月にLINEに入社。HRBPとしてAI、フィンテック領域などを担当。現在はHR Business Partner室長として組織の統括と全社横断組織や注力事業の人・組織における課題解決に向けた取り組みを行う。
永田 スピーディなビジネスを展開するために、HRBPと各事業部長とで、毎週・隔週でミーティングの場をもっているそうですが、具体的には、どのようなお話をされているのですか?
大野 事業部長からは事業の現況を話していただき、私たちHRBPからは人材面・組織面で客観的に見えている課題をお伝えします。
事業部長から聞く悩みで圧倒的に多いのは「空いたポストにアサインできる適切な人材がいない」ということです。また、部下について、「(能力が)足りない部分は明確だけれど、具体的にどのように(能力を)伸ばせばいいのかがわからない」「会社が提供している研修プログラムもあるけど、こちらが受けてほしいと考えている人がなかなか受けてくれない」といった人材育成に関する悩みを聞くこともあります。
小向 たとえば、「(部下の)○○さんとは1on1でコミュニケーションをとっているが、HRBPの立場からは、○○さんはどのように見えているのか?」など、第三者的な視点からの意見を求められることもありますね。私たちHRBPから見える部分だけを伝えるのであれば定性的にお伝えできますが、場合によっては、周りの方にヒアリングしたり、必要な数字を集めたりして、ファクト(事実)としてお伝えします。
小向洋誌 Hiroshi KOMUKAI
LINE株式会社
HR Business Partner室 マネージャー
地元仙台にて起業と廃業を経験後、2005年ヤフー株式会社に入社。ショッピング、オークションの企画・営業業務を経て2012年より人事組織に異動。人材開発、組織開発、評価制度設計・運用、タレントマネジメント、HRBPなどの業務を担当する。2020年8月にLINE入社。広告領域、エンターテイメント領域のHRBPを担当する。
永田 パワハラやメンタルヘルスへの対応に関しても、各職場のマネージャーが自走できるように、HRBPが伴走するとうかがいました。各職場のマネージャー層を育てるのもHRBPの重要な役割だと……。
大野 はい。HRBPは、その役割も大きいと思います。弊社は社員の専門性を重視しているので、採用も「スペシャリスト採用」というかたちをとっています。専門性が必要なポジションに、該当するスキルを持つ人材を配置するという採用方法です。そうすると、必然的にマネジメント的な観点が弱くなってしまいます。とりわけ、弊社は約7割がエンジニアですから、そうした方々には、まず、「マネジメントが苦手な方のサポートとして、マネジメント力を育てる」というところからアプローチして、マネジメントの意識を少しずつ高めていただいています。「マネジメント力を育てる」という、HRBPの姿勢はとても重要です。