毎年10月は乳がんの早期発見・治療を呼びかける「ピンクリボン月間」だ。
先頃、男性の乳がんが話題になった。男性の乳がんの背景には、高女性ホルモン(エストロゲン)状態になりやすい状況──たとえば停留睾丸や睾丸炎、睾丸の外傷、あるいはテストステロンの過剰利用、肥満などがあるとされている。
また、男性乳がん患者の10~20%に家族歴があり、乳がん原因遺伝子のBRCA1/2のいずれかを持っている可能性も高い。
男性は乳腺組織が乳輪の下にのみ存在することが多いため、乳輪付近にしこりやくぼみ、引っ張られるような痛覚があれば、「乳腺外科」を受診してみるといい。
乳がんは治療法が最も進化した領域のひとつで、リンパ節転移がある進行がんでも、女性患者の「10年生存率」は6割を超える。
一方、男性に関しては米国のがん患者登録研究から、少々気になる報告があがっている。
同研究は、2004~12年までに乳がん診断を受けた患者を登録し、19年まで追跡調査したもの。対象181万6733人中、男性患者は1万6025人だった。
男性患者の平均年齢は63.3歳、進行がんで診断される比率が女性より多かった。
追跡期間中に、3988人の男性と28万8989人の女性が亡くなったが、あらゆる原因による全死亡で比較すると、男性患者は、どのステージ(病期)でも女性患者より死亡率が高かった。
たとえば、リンパ節転移があるステージIIIでは男性の5年生存率は63.3%、女性は70.1%、遠隔転移があるステージIVでは21.4%と25.1%だった。総じて男性患者は女性患者よりも、診断後3年間の死亡率が15%高く、5年間の死亡率も19%高かったのだ。研究者は「男性は標準治療を行わないか、治療の順守率に差がありそうだ」と「治療不十分」の可能性を指摘している。
多くの男性にとって「乳がん」の診断名は寝耳に水だろう。抗がん治療や社会生活の変化を受け容れ難いかもしれない。しかし、標準治療を淡々と続けることが生存率の改善につながる。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)