【 実際の相談事例 】
 職場に行くのが辛いです。仕事が嫌いとか、そういうことではなくて……。説明が難しいですけど、職場の人たちから、「八方美人」「仕事が遅い」と思われているのが、嫌なのです。
 私なりに仕事は頑張っていますし、遅いのはミスしないように気をつけているから。数字を扱う仕事なので、仕事が早くてミスするより断然いいと思ってます!
 八方美人は……たしかにそうかもしれないけれど、ある程度のコミュニケーションは必要じゃないですか。
 とにかく前みたいに、仕事に楽しく行けるようになりたいです。
 今は、どうせこう思ってるんだろうなと考えてしまって、仕事に行く前からモチベーションが下がっている状態なので。

「職場の人たちから、八方美人、仕事が遅いと思われているのが嫌」ということで相談に訪れたSさん。
 ですが、よくよく話を聞くと、実際にそのような言葉を言われたこともなければ、誰かがそういうことを言っているといううわさを聞いたことも一度もありませんでした。

 Sさんは、自分で自分に「八方美人」「仕事が遅い」というレッテルを貼ってしまっていました。
 このようなケースの場合、過去に誰かから言われた言葉がレッテルとなっていることがあります。

 例えば、子どもの頃に「デブ」「ガリ(ガリガリ)」などと容姿をやゆされていた人は、大人になって標準的な体形になっても、「デブ」「ガリ」というレッテルに苦しむことがあります。

 ちょっと太るだけで「デブ」という言葉がよみがえって怖くなったり、人並みの体形になっても「自分はガリガリなのでは」と自信が持てなくなってしまったりすることは珍しくありません。

本当の原因は
現在ではなく過去にあった

 ですがSさんの場合、レッテルの影響はそれほど感じられませんでした。
 なぜならSさんは、八方美人であることはある程度必要だと認識し、数字を扱う仕事である以上は、スピードよりも正確性を重視することに自分で納得できていたからです。

 レッテルのせいで苦しんでいるというよりは、「誰も本当の自分を分かってくれない」ということに苦しんでいるように見えました。
 このことを伝えたところ、Sさんは何かを思い出すように話し始めました。