「ちょっと思い出したことがあるんですけど……。
 中学生の頃、父親が不倫したんです。もう、家の中はめちゃくちゃですよ。
 私自身、親が離婚しちゃうんじゃないかって毎日怖かったです。でもまぁ、結局離婚しなかったですけど。
 そんなひどい状況の時に、部活の先輩から、Sって悩みなさそうだよねーって言われて。周りにいた友達や先生も同調してました。
 自分はこんなに悩んでるのに、誰も分かってくれないんだな、悩みがなさそうって見えるんだなって。笑ってごまかしましたけど、ショックだったなー。
 そういえば、その頃からです。どうせこう思ってるんだろうな、みたいに考えるようになったのは」

 Sさんがネガティブな先入観を持つきっかけは、このできごとにありました。
 自分は今こんなにも悩んでいるのに、周囲からは悩みがない人と思われているという、現実とのギャップにショックを受けていたのです。

 さらにはこの時に言われた「悩みがなさそう」「ニコニコ」というキャラが、自分の中に強くインプットされて、人に相談することも苦手になってしまっていました。
 そうするうちに、「どうせこう思っているんだろうな」というネガティブな考えが、どんどん強化されてしまったのです。

「魔法の言葉」を
付け加えてみよう

 大切なのは、「どうせこう思っているんだろうな」という思いが出てきた時に、無理に否定したり肯定したりしないこと。
「どうせこう思っている」というのは、あくまで想像でしかないのですが、本人にとっては限りなく事実に近いものだからです。

「そんなふうに考えてはいけない」と思ってしまうと、自分の考えそのものを否定することにつながりかねませんから、そんな時には「……と私は思った」と付け加えてみましょう。
 Sさんのケースでたとえるなら、「どうせ八方美人だと思っているんだろうな……と私は思った」という具合です。

ネガティブ思考が減り
自分軸で生きられる

 最後にその言葉を付け加えるだけで、ネガティブな思い込みが事実ではなく、自分の想像だということを頭で理解できるようになっていきます。

 この繰り返しで、だんだんとネガティブな想像は減り、「〇〇だと思っているかもしれないけれど、私はこうしたい」というふうに、自分軸で物事を考え、行動できるようになりますよ。

Poche(ポッシュ)
精神科クリニックに併設のカウンセリングルームで10年以上、心理カウンセラーとして勤務した後、独立。現在は人間関係、親子問題、機能不全家族専門カウンセラーとしてメールでのカウンセリングを中心に活動。メールでのカウンセリング、対面カウンセリングともにいつも予約がいっぱいで、現在も数か月待ちの超人気カウンセラー。
著書に『あなたはもう、自分のために生きていい』(ダイヤモンド社)などがある。最新刊は『悪いのは、あなたじゃない』(ダイヤモンド社)。X(旧Twitter)@Poche77085714

※本稿は、Poche著『悪いのは、あなたじゃない』(ダイヤモンド社)から抜粋し、再構成したものです。