兵士の強化改造は、まず国際人道法上、適法と認められることが重要である。また、意見書は、兵士の強化改造技術の研究開発においては、目的、内容と予想されるリスクなどについて、最新の知見に基づく情報を対象となる兵士に事前に伝えるよう求めている。

 強化改造技術の開発を適正に進めるためには、対象となる兵士の健康にどういうリスクや悪影響が及ぶかを、正しく評価しておかなければいけない。意見書は、強化改造措置に伴う可能性のあるリスクとして、次のような例を挙げている。

*短期的、中長期的な望ましくない効果(薬物の常用による副作用~吐き気、体重増加やがんのリスクの増大、インプラントへの拒絶反応など)
*脳または身体の機能の間に不均衡が生じるリスク(高めた能力が他の能力を衰弱させるおそれ)
*依存症に陥るリスク

 特に、強化された状態が脳の報酬系と結びついて、そこから離れられなくなる、あるいはさらなる強化を望んで依存症になるリスクがあるという指摘は重要だ。

強化の副産物「同調圧力と差別」
義手がハッキングされるリスクも

 意見書は、兵士の強化改造措置がもたらしうるリスクとして、様々な集団的圧力が生じるおそれを指摘している。国防への犠牲と献身、軍に対する忠誠が求められる軍隊社会においては、独特の大きな問題になる。

 個々の兵士に対し、強化改造措置を受けるよう暗黙の強制が働くおそれは大きい。そうした圧力の雰囲気のなかで、過剰な強化改造措置を兵士が欲するようになる危険も意見書は指摘している。

 こうした圧力の悪影響から対象者を守るために、意見書は、強化改造措置を受け入れるか否かの決定を、原則として対象者の同意に委ねるよう求めている。

 意見書はさらに、強化改造措置を受け入れるよう求める圧力が、強化を受けた者と受けない者の間に差別をもたらし、それが集団的な排除などの弊害をもたらすリスクがあるとしている。

 また意見書は、軍特有の問題として、強化改造措置を受けた兵士のグループが、受けていないグループを、任務遂行を妨げる危険な邪魔者とみなすことで、軍内の秩序が乱されるおそれを指摘している。