もともと切り離せない「宇宙と軍事」。偵察衛星などを使った情報戦は、ロシア・ウクライナ戦争でも日常的に繰り広げられている。実は昨今、宇宙の軍事行動で中国の動きが警戒されているという。あたかもSF映画さながらの、敵国衛星への直接攻撃などが現実になるかもしれない。特集『来るぞ370兆円市場 ビッグバン!宇宙ビジネス』(全13回)の#7では、すぐそこの未来にある、宇宙戦争の実態に専門ライターが迫る。(フリーライター 大貫 剛)
リアルタイム作戦指揮が勝敗を決する
ウクライナで威力を発揮した軍事宇宙利用
そもそも宇宙開発はその始まりから、軍事と一体だった。米国・ソビエト連邦冷戦時代の全面核戦争というシナリオは宇宙を主要な舞台としていたことでも知られている。
米ソは互いを直接攻撃できる、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を多数配備した。ICBMは安全な本土奥地から発射できるため、宇宙から配備状況を撮影できる偵察衛星が必要になった。また開戦した際にICBMの発射を即座に探知して反撃を開始するための早期警戒衛星、地球規模で展開する部隊が現在地を正確に把握するための測位衛星、部隊間の通信を確保する通信衛星――などが次々と実用化された。現在では民生用でも広く用いられている宇宙技術の多くは、こうした軍事目的で確立されたものだ。
現在続いているロシア・ウクライナ戦争でも、欧米諸国による軍事援助の一つとして宇宙利用が挙げられている。その軸になっているのは、上記で挙げたような従来型の宇宙軍事利用の発展型である。
軍事作戦は、敵の情報を偵察し、自軍の戦力を準備し、より有利な状況で戦闘することの繰り返しだ。この意思決定サイクルが数日から数時間、さらに数分単位へと短縮されれば、敵の弱点を突くよう味方に適切な命令を与え、戦闘を有利に進めることができる。
これには宇宙利用が欠かせない。偵察衛星やドローンなどはもちろん、陸海空のさまざまな部隊と情報共有するには、衛星による高速通信が不可欠だ。また、これらの情報をスマートフォンやタブレットで利用することで、一兵士に至るまで高度な情報共有が可能になるのだ。
ロシア・ウクライナ戦争でも大いに活用された「宇宙情報」。実はその使い方の巧拙で、ウクライナとロシアには差がついているという。一方、日本人なら気になる中国の軍事動向に関しては、その技術の内容で米国を凌駕するレベルに成長しているという。さらに、来るべき宇宙時代に、日本の自衛隊はどう対応するのか。次ページ以降で詳しく見ていこう。