兵士の作戦遂行上の能力を高める特定の強化改造措置が、独特の脆弱性をもたらすおそれがあることを、意見書は指摘している。
たとえば脳のインプラントや義眼・義手・義足などが、情報通信システムと繋がれて運用されると、敵がハッキングして操作してくる機会が生じるリスクがある。兵士の目や足が乗っ取られて、行動を妨害したり、敵に利する行動を取らせたりするおそれがあるということだ。
こうしたサイバー攻撃に対する脆弱性は、民生分野で実用化されている心臓ペースメーカーやインスリン・ポンプで、現に認められている。
意見書は、兵士の強化改造措置がもたらしうる問題として、市民生活に戻る際に困難が生じるリスクについて考慮するよう求めている。たとえば、切断した腕を、武器を装備した取り外せない義手に変えてしまった兵士は、一般市民として暮らせなくなるだろうと意見書はいう。
また、軍務中に受けていた強化改造措置を解除されることを嫌って、市民生活に戻りたがらない兵士が出てくるかもしれないとも指摘している。
そこで意見書は、兵士の社会への統合や市民生活への復帰を危うくするような強化改造措置はすべて禁じるとした。また、依存症に陥りやすそうなプロフィールを持つ兵士は、事前の検査でチェックして強化改造措置の対象から外すよう求めている。
みだりに強化改造を欲し続け、そこから離れられなくなると、本人の健康へのリスクが高まるだけでなく、市民生活への復帰を危うくする要因ともなるからである。
橳島次郎 著
さらに、意見書が指摘する「非人間化のリスク」も、ここに関連してくる。強化改造措置により対象者に、抑制がなくなる、攻撃性が亢進する、分別が失われるといった人格の変容や、現実に対する人格剥離・冷酷化といった悪影響が出るリスクがある。
こうした非人間化は、武力の不適正な使用や過剰な攻撃行動につながり、非戦闘員の保護などの国際人道法の要請が守られなくなるおそれをもたらすだけでなく、社会生活への復帰を困難にする要因にもなる。
兵士の強化改造技術は、開発途上の研究段階のものが多い。個々の技術の安全性と有効性を確かめるためには、人間を対象にした実験研究を行う必要がある。実験対象にされるのは、民間人ボランティアという場合もなくはないだろうが、やはり現役の兵士が中心になるだろう。