「質問責任」という言葉をつくったワケ

佐宗 先ほど、「それぞれの人の都合は発信してくれないとわからない。何か意見があったら言ってほしい」というお話がありましたが、大企業などではこういう文化もなかなか浸透していかなくて悩んでいると思います。当時、何か意識的に仕掛けたことはあるのですか?

青野 「質問責任」という言葉をつくりました。「説明責任」という言葉はよく使われますよね。説明責任も大事なのですが、サイボウズでは、質問することにも責任があると決めたんです。少しでも「おかしいな」と思ったのなら、その人には質問する責任がある、と。

ちょっと過激な言い方かもしれませんが、「自分が疑問に思っていることをちゃんと質問をしないで、あとから飲み屋で愚痴るのは卑怯者のやることだ」くらいの感じで、何度も何度も「質問責任」という言葉を繰り返し語りました。社内でモードチェンジが進んでいったのは、質問責任という言葉のおかげもあるんじゃないかと思いますね。

佐宗 自由って「なんでも許される」ということではなく、責任とセットだし、とてもプレッシャーがかかることですよね。自立した一人の人間として責任を持って初めて自由が成立する。民主主義に近い哲学を持っていらっしゃるのだと感じました。

青野 おっしゃるとおりです。僕たちサイボウズがつくりたいのは「民主的な社会」だとも言い換えられるかもしれませんね。「100人100通りの人事制度」に挑戦してみて気づいたのは、「上からいい制度が降ってきた、ラッキー」というような甘いものではないということです。それぞれの人に「あなたはどう生きたいんですか?」という問いが突きつけられるんです。けっこう厳しい側面もあるんですよね。

佐宗 「質問責任」もそうですが、青野さんの本を読んでいると、非常に哲学的な内容を言語化してうまく社内に浸透なさってきたのだなと感じます。

青野 社内がバラバラだったから言葉が必要だったんでしょうね。石垣に石を積むように、一つずつ言葉をつくっていくしかなかったんだと思いますね。

職場の「質問しない文化」を変えるたった1つの言葉
佐宗邦威(さそう・くにたけ)
株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー/多摩美術大学 特任准教授
東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を創業。山本山、ソニー、パナソニック、オムロン、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、KINTO、ALE、クロスフィールズ、白馬村など、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーションおよびブランディングの支援を行うほか、各社の企業理念の策定および実装に向けたプロジェクトについても実績多数。著書に最新刊『理念経営2.0』のほか、ベストセラーとなった『直感と論理をつなぐ思考法』(いずれもダイヤモンド社)などがある。