「チームワークあふれる社会を創る」を理念に掲げるサイボウズは、個々人の働き方から事業戦略に至るまで、すべてを理念に照らして判断していく「理念経営2.0」型の企業だ。同社代表取締役である青野慶久さんは、佐宗邦威さんの『理念経営2.0』を読み、「会社にとって理念というものがなぜ必要で、どうつくり、どう使えばいいのかをここまで整理した本はない」「自分に欠けていた視点を補えた。辞書のように繰り返し使いたい一冊」と絶賛している。書籍刊行をきっかけに、青野さんと佐宗さんによる対談が実現した(第4回/全4回 構成:フェリックス清香 撮影:疋田千里)。

「一体感があるのに自由なチーム」と「窮屈で息苦しいだけのチーム」の決定的な違い

長期のパーパスと短期の事業戦略の接続

佐宗邦威(以下、佐宗) とくに規模の大きな会社の場合、長期軸で考える理念と実際の戦略をどう接続していくかという部分が、経営者にとっては悩みどころになることが多いと思います。企業理念を分解して、各事業の1年後、3年後、10年後の姿へとブレークダウンしていくような会社もありますよね。僕の経営するBIOTOPEでは、長期ビジョンまでのストーリーは共有しますが、明確な戦略に落とし込んだりはせずに、起こったことに対してその都度対応するような戦略アプローチをとっています。サイボウズさんでは、理念と事業戦略の関係性をどうとらえているのですか?

青野慶久(以下、青野) そうですね、サイボウズの場合は、理念をまずは相当遠いところに置いて、必然的に長期で発想できるようにしました。僕たちは「世界で一番使われるグループウェア・メーカーになる。」という理念を置いたわけですが、そう決めた途端に「国内No.1のシェアをとる」といった目標は無意味になるんです。

その長期のビジョンと短期の戦略をつないでいくときに問題になりやすいのは、いわゆる「両利きの経営」に関わる部分ですよね。いま儲かっている事業があるんだけど、まだ儲かるかわかんないチャレンジも探索していかないといけない。この両者をいかに喧嘩させずに共存させるかって、なかなか難しいわけです。

一歩間違うと、既存事業のほうからは「俺たちが稼いでいるカネを、新規事業のやつらは無駄にしやがって…。全然成果出てないんだから、さっさとやめちゃえばいいのに」みたいな声が上がりかねない。逆に、長期的な視野であたらしい事業をつくっている人たちのほうは、「もう既存事業は安泰じゃないから、早く新しい事業を立ち上げないといけないのに、あいつらは短期的なことしか考えていない。腹が立つ!」なんていい始めるわけです。こうなった瞬間、どちらもうまくいかなくなります。

こういうカテゴリーの違うものをうまく共存させ、協調関係をつくるときにも、やっぱり遠い遠いところに理念を置くことが大事なんです。「いま稼いでいる既存事業はたしかにすごい。でも、遠い理想像にたどり着くためには、新しいネタも必要だよね」という具合に、互いに認め合えるようにしてくれるのが理念なんですよね。だから、事業戦略をつくるときにも、つねに遠くにある理念を意識し合うようにしています。

「一体感があるのに自由なチーム」と「窮屈で息苦しいだけのチーム」の決定的な違い
青野慶久(あおの・よしひさ)
サイボウズ株式会社 代表取締役社長
1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任。2018年1月代表取締役社長 兼 チームワーク総研所長(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。著書に『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、『ちょいデキ!』(文春新書)、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)など。