「1000人1000通り」を求めつつ一体感を持つために

佐宗 いまのお話は、働き方の多様性に関しても同じことが言えるのではないでしょうか? サイボウズさんは、各自の「これをやりたい」「こんなふうに働きたい」という多様性を少しずつ人事制度に取り入れて、「100人100通りの働き方」ができる会社をつくってこられたんですよね。

ただ、「100人100通り」と「1000人1000通り」はかなり違う気がします。社員の人数が増えてくるなかで、多様性を大事にするための工夫や、そのうえでの課題はありますか?

青野 いま、いろんなことが頭をよぎりましたね。サイボウズでは、起きている問題を共有することが大事だと言い続けてきました。ただ、社員が増えてくると、オープンにできない問題も増えてくるんです。

たとえば、100人規模のときは、社員同士でいざこざが起こってもすぐに解決できました。しかし、社員1000人になると、いろんなことが同時多発していて、全体に問題を共有するわけにはいかなくなってきます。そうなると、権限を持ったマネジャーがその都度その都度、解決するしかないんですね。そうすると、一部のメンバーがなにも知らないところで問題が起きていたり、味方によっては不公平な解決がなされている可能性が生じてきます。ここは課題だと感じていますね。

佐宗 あと、働く場所についてはいかがでしょうか? サイボウズさんでは、どこで仕事をするかも、以前から自由に選べるようにされていますよね。しかし、企業規模が大きくなってくると、組織としての一体感や帰属感を保つのが難しくなったりはしないのでしょうか?

青野 「一体感」という言葉を再定義しなくてはいけないだろうと思いますね。僕が考えている一体感は「同じ方向に向かっている」という感覚です。まさに佐宗さんの『理念経営2.0』で書かれていることですが、「僕の野望と、あなたのやりたいことはけっこう近いところにあるね。だから一緒に働けるよね」というこの感覚が一体感なんです。

「同じ時間に同じ場所で働いているから一体感を感じる」という企業もあるかもしれません。ですが、サイボウズにおいては、それを一体感とは呼ばない。同じ方向を向いて仕事をしている感覚こそが、僕たちの「一体感」なんです。

こうやって口で言うのは簡単ですが、実際にそう感じてもらうのは大変なので、まさに佐宗さんが『理念経営2.0』で書かれているようなことを粛々とやっている感じですね。

「一体感があるのに自由なチーム」と「窮屈で息苦しいだけのチーム」の決定的な違い
佐宗邦威(さそう・くにたけ)
株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー/多摩美術大学 特任准教授
東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を創業。山本山、ソニー、パナソニック、オムロン、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、KINTO、ALE、クロスフィールズ、白馬村など、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーションおよびブランディングの支援を行うほか、各社の企業理念の策定および実装に向けたプロジェクトについても実績多数。著書に最新刊『理念経営2.0』のほか、ベストセラーとなった『直感と論理をつなぐ思考法』(いずれもダイヤモンド社)などがある。