新居を売るという道もあるけれど、何せ買ったばかりなので、値段は大して上がっていないうえ、内装などにかかった6万元を損してしまう。かといって父親を助けないわけにはいかない。新居より、もし自分が売れて金になるなら躊躇なくそうするのに……。
ふと、マンションを担保にして布芸の社長周鵬飛(ジョウパンフェイ)に借金を申し込んでみようと思いついた。
王の仕事ぶりを認めてくれている周社長はまだ35歳、年齢が近いこともあって普段から気軽に話せる上司である。自分が困っていると知れば、きっと力になってくれるだろう。
2009年10月のある日、淡い期待を抱いた王は出勤してきた社長について社長室に行った。
「父が尿毒症で今入院中でして、腎臓移植に手術代50万元がかかるんです。貸していただけないでしょうか。買ったばかりのマンションを担保にと思っていますが。市場価格70万元のマンションを担保に50万元を貸していただけないでしょうか? もちろん住宅ローンは僕自身で返済しますし、もし貸していただけるなら、僕は一生社長の元で、牛馬になって働きますから……」
周社長はしばし沈黙したあと、ようやく口を開いた。
「感動したよ。親孝行のキミを尊敬するよ。力にならせてもらおう」
「ほんとですか? 助かります。ありがとうございます。一生感謝します」
まさかこんな簡単に話がつくとは。王はいたく感激した。
「でも、マンションの担保なんて必要ない。ただその代わりに、俺にも助けてもらいたいことがあるんだ」
周社長がなぜか表情を変え、急に近寄ってきて低い声でそう言ったので、王はちょっと不安になった。
「そんなに緊張するなよ。君に違法なことをさせるわけじゃないから。1年間俺の代わりになるだけで良いんだ」
「社長の代わりになる?」
周社長は戸惑う王を見てにっこりし、訳を告げる。
周社長は20代から起業し衣料品加工メーカーを経営し始めた。その手腕にちょうど中国のファッションブームも相まって、会社は順風満帆に成長し、10年ほどで数千万元の財産を築きあげた。
それから、成功したビジネスマンの「基本装備」と呼ばれる、「豪邸、高級車、愛人」を、周社長も何一つ欠けることなく手に入れたらしい。とりわけ彼が別宅でかくまっている若い愛人文々(ウェンウェン)が最近妊娠したことで、二人は今ちょうど「私生児」の誕生をどう迎えればいいのかについて知恵を絞っているところである。