「は?」

 夫に愛人がいるようだとうすうす気づいてはいたけれど、まさか私生児まで生ませていたとは……。張の妻はさすがに驚き、空いた口が塞がらない。

「愛人が若くて美人、息子も丸々と太って可愛いしね、旦那さんはルンルン生活を満喫していますよ」
「女と私生児の住所、知ってるんですか?」
「もちろん。知りたいですよね。300万元の借用書を書いてくれれば、教えますよ」

 いきなり300万元の要求に、妻は躊躇した。目の前の男は、詐欺師かもしれない。彼女の目から疑いを読み取った王はにやけて、空咳を一つするとまた口を開いた。

「金持ちの周社長と離婚すればどれだけの財産をもらえるかは、彼が婚姻に忠実でなかった証拠にかかっているんですよね」

 実際、妻の張も離婚することを考えていた。権勢のある両親の元に生まれ育った彼女は平凡な容姿だったにもかかわらず、周の猛烈なアタックを受けて恋愛結婚した。娘の幸せを願って両親は、婿の周に資金を提供し人脈などの面でもサポートした。おかげで周は徐々に衣料品加工業界で頭角を現し、やがて一目置かれる存在にまで成長した。

 成功するや否や、妻に対する周の態度は冷え込む一方だった。触れ合う機会も話す機会もめっきり減って家に帰ってこない。会社経営にも金銭関係にも一切手を触れさせてくれない。その両親も無視するようにもなった。

 そんな夫との結婚生活を修復することなどもう望まない。ただ離婚するならば財産を1元でも多く取ろうと考えて、探偵事務所に依頼したこともあるが、調査に気づいた周は会社の警備員に命じて、探偵を捕まえて殴らせたあと、その場で写真など証拠になるものをすべて奪って破棄した。

「あなたの証言が本当である証拠は?」
「これ離婚届、女は周の愛人だ。今すぐ金をくれとは言っていない。離婚後財産が手に入ってからで良いんだ」

 王は、半信半疑の妻に離婚書類を見せながら、周社長との「取引」を話して聞かせた。

 夫の裏切りを聞き終えて、妻はすっかり王を信用した。極力怒りを抑えながらも彼女は、「取引」を受け入れ、300万元の「借用書」を書いて捺印した。

 2月中旬、王からもらった文々の情報を基に、張は従兄弟を伴い、夫の別宅の「家宅捜索」を行った。夫はちょうど「在宅中」で、愛人と私生児と一家団欒のところだった。壁一面に二人のウェディング写真がかけてあり、私生児は夫をコピーしたような顔をしている。