デザインから生産まで自らかかわっていたし、クォリティーについては特に厳しくチェックしていた。「最初が肝心」というので、出荷時は慎重に慎重を期して検査したのに……。

 原因を究明すべく、オーダーの多かった北京上海広州などの主要都市に行ってみようと決めた。出発する前に王は、新たに倉庫を借りて、大量の返品を保管する。

 新参者の王の工場は、思いのほか「有名」になっていた。「王氏製品が品質問題で売れないため返品大量発生」などと。むろん新たに注文するバイヤーはもういない。

 うなだれて帰りの列車に乗り込んだ。なぜ、なぜ。――繰り返してそう自問する。次第に眠りに落ちた。闇におぼろげに一つの顔が浮き沈みしているではないか。――周社長?

 そう、周社長は離婚後に、王が愛人の情報を300万元で元妻に売りつけたことを知り、激怒し復讐を誓った。そこで王の起業計画を聞きつけて、業界のお得意先や旧友を買収し、王を破産に追い込むように罠を仕掛けたのだった。

 王は見事にその罠に引っかかり、周から脅し取った700万元だけでなく、銀行から借り入れた800万元も泡のように一瞬で弾けて消えてしまった。

 2012年4月末、銀行への返金最終期限を迎え、返済する金がなく、王の破産は余儀なくされた。また仕入先への未払い代金を返済するために、マンションも競売に掛けられてしまった。

 無一文になった。マンションから追い出された王は30平米にも満たない狭いぼろ家を借りて、父親と引っ越した。黴臭い玄関の前で、彼は崩れ落ちて「いやだ。僕はミリオネアだ」と叫んだ。「再起」はもう無理。王は絶望した。自分の人生を無茶苦茶にした周を許せない。

 彼はナイフを隠し持って、周を尾行しタイミングを窺(うかが)った。

 2012年6月のある日、夕方仕事から帰宅した周社長は、マンションの入口に入ろうとしたところ、突然後ろから刺され、悲鳴を上げながら倒れた。死に至っていないのを見た王は、いったん抜き出したナイフでとどめを刺そうとしたときに、中から出てきた二人の住人に気づき、慌てて逃走。