通報を受け、ほどなくして警察と救急車が来て、病院に運ばれたおかげで、周社長は一命を取り留めた。王はその後近くで取り押さえられ、逮捕された。
2013年、恐喝罪、傷害罪などで起訴された王は、裁判で懲役15年、罰金5000元の刑を言い渡された。
「世界一幸せ」という社会主義の国を築き、最終的に共産主義を実現するのだと、かつて毛沢東はそう謳(うた)って中国の貧民を騙しました。政権を奪い取ると、「打土豪分田地(地主資本家を打倒して、土地を平等に分割する)」のスローガンを叫んで「土地国有」を実現しました。
その後鄧小平が改革開放路線に切り替え、政権は江沢民、胡錦濤へと渡っていきながら、彼らは「国有土地」を売買しGDP2桁の成長という虚勢の「盛世繁栄」を作り上げました。むろんその間、富裕層という新興「土豪」は、下水道にはびこるカビのように繁殖したけれど、そのほとんどは、かつて「貧民に平等に土地を分け与える」と叫んだ輩の血筋を引いた者ではないでしょうか。
夢とは、権力者が貧民に見せて喜ばせる、ある種の手品のようなもの。何度騙されても弄(もてあそ)ばれてもひたすらそんな夢に浸るのは我が中国人民の「個性」、あるいは中国人の「民族性」になってしまったようです。
貧から富という「シンデレラ童話」的な飛躍は、我が祖国では権力によってしか実現し得ないもので、ゆえに「劫富済貧(きょうふせいひん)」(金持ちからお金を奪って貧しい人を救済する)なる熟語の響きは数千年の時を超えて、今もカッコよく、血を騒がせる魔力に満ちています。
この話に登場する王と周は、加害者と被害者の関係ではあったけれども、二人とも貧しい庶民の出身で、金持ちになるために「手段を選ばない」やり方から見ても似た者同士ではないか。――周の結婚は妻の両親の権勢が目当てだったし、王だって周から金を脅し取ろうと次々と策を弄(ろう)しました。
事業に成功すればすぐ愛人を囲い込み、私生児を産ませる、というのはここ30年、中国の「成功者」の印、ないしはステータスになり、共産党員なら辺鄙(へんぴ)な農村の村長から国家主席、ビジネスマンなら屋台の串焼きオヤジからアリババのCEOまで――官位や財産の額にかかわらず、とにかく若い「愛人」を持って周りとの「差」をつけようとするのです。
そういえば、「共産共妻(財産を奪い、妻も奪う)」「資本家や地主の豪邸を奪って、その妾や娘を寝取るんだ」は、1940年代、政権を狙って、国民党と内戦で戦っていた頃の、共産党の「目標」でもありました。