やりたいことが見つからない、どうすれば自分に合う仕事が見つけられるのか、いいキャリアを作っていきたい……。就職や転職について、あるいはキャリアづくりについて、悩みを抱える若い人は昔も今も少なくない。
そんな若者たちに向け、一度しかない人生を輝かせるノウハウを明らかにしてベストセラーになっているのが、『苦しかったときの話をしようか──ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」』だ。著者は、P&Gを経てUSJをV字回復させたことで脚光を浴びたマーケター、現在は起業して株式会社刀を率いる森岡毅氏。全世代から支持を集めている、そのエッセンスとは?(文/上阪徹)
子どもが社会に巣立つとき、親が贈れる言葉とは
キャリアについて書かれた本は数多くあるが、実際にビジネスマンとして活躍してきた親が、自分の子どものために書いたというのが、本書だ。しかも、著者はP&Gで米国本社勤務も経験、転じたUSJで窮地の状態からV字回復させた立役者として知られた森岡毅氏。現在は起業し、戦略家・マーケターとしてマーケティング戦略集団「刀」を率いている。
仕事で大きな結果を出した著者による、まさに「働くことの本質」が描かれた一冊は、若い人から親世代にまで支持され、40万部を超えるベストセラーになっている。
初めて原稿を読んだ担当編集者が目を真っ赤にし、原稿の上に涙の染みを作ったというエピソードが「はじめに」に出てくる。
この文章を書いている私は担当編集者を存じ上げているが、実は私と同様、年頃の娘を持つ身。最終章で描かれる我が子への思いの熱さには、懐かしさとともにたしかに心震えるものがあった。親はみな、子を愛しているのだ。
あっという間に時は過ぎ、ついに子どもが社会に飛び立とうとしている。親として、どんな声をかけたいだろう。本書を読みながら、多くの親が改めて子どもに思いを寄せている姿を想像できた。
自分たちは子どもたちに何を残せてやれるだろう。それを、一人一人が、あるいは夫婦が、本気で考えるべき時期に来ている。
この残酷な社会で、日本人が生き残る道
日本について、残念なニュースばかりが目につくようになったのは、いつ頃からだっただろうか。このままでは、この国が危うい。そんなふうに感じている人は、親世代の中にも少なくないだろう。
著者もこう記す。
思ってもみなかった円安が進み、物価も上がり始めている。私も体験したが、この春に旅行で行ったハワイでも、この夏に出張で行ったオーストラリアでも、ラーメン1杯食べるにも、びっくりな金額だった。衝撃だった。これでは、おいそれと海外には行けなくなった、と感じた。日本は明らかに貧乏になってしまったのだ。
しかし、物価高を嘆いていたところで、何も起こらない。
これから社会に出ていく子どもたちのためにも、閉塞している日本の状況を変えなければいけない。社会の空気を、企業の意識を、働く一人ひとりの行動を。
だからこそ、著者はこう提案する。
実は身近なところで、貢献する方法がある。キャリアの話やお金の話を、親が子どもにしっかりとしていくことだ。「背中で語る親は立派だが、我々はもう少し口でも語れるようにならなければならない」と著者は書く。
そして、こうも言える。元気な日本を作っていくために何が必要なのか。愛する子どもに伝えられるだけの「新しい学び」が親に求められているのだ。
「だから、ビビっている君は素晴らしい!」
何かを変えようとするとき、何か新しいことを始めようとするとき、人は不安に襲われることになる。これは、親も同様だろう。いや、過去にたくさんの体験が積み上げられているだけに、余計に不安は大きくなるのかもしれない。
本書には、著者から娘への不安の向き合い方が語られている。第6章の「自分の“弱さ”とどう向き合うのか?」だ。実はこれ、読んでいると、そのまま親にも言えることなのではないか、と思えた。
もちろん子どもたち、若い人たちも参考にするといい。でも、大人たちも参考にできる。
「だから、ビビっている君は素晴らしい!」と著者は書くのだ。そして、「実は、私もしょっちゅう、ビビっている(笑)」と。
もし、人生にビビっていないとすれば、それは何かを変えようとしたり、新しい何かをしようとしていない、ということを意味するのかもしれない。
この文章を書いている私は数千人に取材をしているが、若い頃はよく成功者に質問していた。「不安はなくなりますか?」と。実はどんなに成功している人も、不安を持っていた。その理由が今はわかる。誰も、満足などしていなかったからだ。新しい取り組みに、常に挑んでいたからだ。だから、成功したのである。
著者はこう記す。
何かを変える。新しいことをやってみる。一歩、違う世界に踏み出してみる。新しい考え方を取り入れてみる……。
挑戦することは、若い人の特権なのではない。親世代である大人にも、できることなのだ。親が変わることは、子を変えることにもつながる。では、何から始めるべきか。本書を読むのは、手っ取り早い第一歩だと思う。それにふさわしい読み応えのある一冊なのだ。
(本記事は『苦しかったときの話をしようか──ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」』より一部を引用して解説しています)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『マインド・リセット~不安・不満・不可能をプラスに変える思考習慣』(三笠書房)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。
【大好評連載】
第1回 【森岡毅】「やりたいことがわからない」そんな娘に父が全力で伝えた「働くことの本質」
第2回 【森岡毅】父が娘に本気で伝える「選ぶべき会社」「避けるべき会社」
第3回 【森岡毅】「この世界が苦しい」ときほど、知っておくべき一つの真理