米国による包囲網に対抗するため、中国は国産の半導体産業の育成を急いでいる。さらには国威発揚のためのドラマまで作成した。日本の強みでもある半導体製造装置の分野に、後発組の中国はどこまで食い込むことができるのか。特集『半導体の地政学 米中分断の勝ち組・負け組』の#2では、中国の半導体産業の実力に迫る。(台湾「財訊」 楊喻斐、翻訳・再編集/ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)
半導体露光装置「成功物語」のドラマも作成
中国は半導体サプライチェーン強化に全力
米国は中国に次々と半導体“禁止令”を発動し、オランダと日本も包囲網に加わった。そんな中、中国で国産の半導体露光装置開発の成功を描いたドラマ「我的中国芯」(中国芯は中国製チップの意味)が7月に登場した。中国が自前の半導体材料と製造装置のサプライチェーン強化に全力を尽くしていることを意味する。
ドラマは、国立の研究プロジェクトを引き受け、28nmプロセスに対応した露光波長193nmのDUV(深紫外線)露光装置を開発する民間テクノロジー企業を中心に展開する。研究開発の成功は中国にとって大きな意味を持つ。中国政府のプロパガンダ作品だが、予告映像が公開されるとインターネット上では皮肉の声に包まれた。
「光学顕微鏡で半導体の何を見るの? フラスコは何に使うの? 静電気を防ぐ防じん服を着て!」
批判のせいか、ドラマは放映予定日の7月10日、「スケジュール調整」のため放映中止となった。
美男美女が登場するドラマから現実に戻ると、最近、中国の上海マイクロエレクトロニクスが技術検査に合格し、28nmプロセスに対応した初の量産DUV露光装置を今年末までに投入する、とうわさされている。ただし同社は公表しておらず、業界関係者の多くも、短期間で技術的なブレークスルーに到達することはまだ難しいと考えており、保守的に見ている。
世界の露光装置市場は20年近くにわたり、オランダASML、日本のニコン、キヤノンの3社が支配するほぼ独占状態が続いてきた。米蘭日の輸出規制で、将来は先端プロセスだけでなく成熟プロセスの露光装置も中国メーカーに提供できなくなる可能性がある。
台湾の調査会社トレンドフォースは、輸出規制では45nmから先端プロセスに至るまで全て審査が必要だと規定されており、成熟から先端にまたがる一部プロセス世代のマシンも影響を受けると指摘する。もっとも、28~45nmの成熟プロセスのマシンは輸出許可を得ることもあるという。
中国の露光装置開発はまだ成果を上げていないが、上海で開催された展示会「セミコンチャイナ」では、中国地場半導体装置メーカーの力が浮き彫りになった。
次ページでは、見えてきた中国の半導体産業の現状と、路線転換した戦略を分析する。