半導体の製造には、電子回路パターンをウエハーに焼き付ける露光装置が不可欠だ。現在、この半導体露光装置市場はオランダのASMLホールディングの独壇場となっており、とりわけ最先端のEUV(極端紫外線)露光装置ではシェア100%を誇る。ところがここにきて、かつて業界をけん引した日本勢が反撃に出ようとしている。キヤノンとニコンが、それぞれ独自の路線に光明を見いだしているのだ。特集『半導体 最後の賭け』の#9では、最先端露光装置を持たないキヤノンとニコンの“勝ち筋”を解説するとともに、各社に忍び寄る地政学リスクに迫る。(ダイヤモンド編集部 今枝翔太郎)
蘭ASMLが支配する露光装置市場
後塵を拝するキヤノン・ニコンの“秘策”とは
製造過程でさまざまな技術や装置が必要とされる半導体。その中で最重要装置の一つとされるのが、電子回路パターンをウエハーに焼き付ける露光装置だ。この装置は非常に高度な技術を必要とされるため、「史上最も精密な機械」と呼ばれる。
今この業界で競合他社を圧倒しているのが、オランダのASMLホールディングだ。最先端のEUV(極端紫外線)を用いた露光装置で、世界シェア100%を握る唯一無二の企業である。台湾積体電路製造(TSMC)や米インテル、韓国サムスン電子など先端半導体を製造しているメーカーは全て、ASMLの重要顧客だ。
もちろん、昨年8月に設立されたラピダス(設立の経緯は本特集#2『国策半導体会社ラピダス設立とTSMC誘致の舞台裏、暗躍した日米台「黒幕30人リスト」全公開』参照)もEUV露光装置を必要としている。ところが、すでに大量の注文を抱えているASMLにとって、台数を多く買ってくれるわけではないラピダスは新参者扱いだ。「EUVは元々工期が長いこともあり、ラピダスへの出荷は2024年後半~25年になる」(ASML関係者)というように、順番待ちが続いている状態だ。
ASMLはEUV以外の「ローテク」な露光装置も幅広く手掛けており、半導体露光装置市場は今やASMLの独壇場となっている。1980~90年代にこの市場をけん引してきたキヤノンやニコンはEUV露光装置の開発を断念しており、かつての圧倒的な存在感はない。
とはいえ、キヤノンもニコンも決して「やられっ放し」というわけではない。自社が持つ技術力を駆使して、それぞれが独自の道を切り開こうとしているのだ。
次ページでは、最先端露光装置を持たないキヤノンとニコンの“秘策”を明らかにするとともに、各社に忍び寄る地政学リスクに迫る。対中規制のリスクが高まる中、ピンチをチャンスに変えられるだろうか。