半導体の地政学 米中分断の勝ち組・負け組#3Photo:AFP=JIJI

半導体製造世界最大手のTSMCが7月、台湾に先端半導体などに取り組むR&Dセンターを開設した。地元重視の姿勢が台湾に半導体のハイテク集団を形成し、TSMCの技術力を支える“最強の応援団”になっている。特集『半導体の地政学 米中分断の勝ち組・負け組』の#3では、TSMCの現地企業の育成と、注目の台湾企業10社についてお届けする。(台湾「財訊」 劉志明、翻訳・再編集/ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)

「週刊ダイヤモンド」2023年10月21日号の第2特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

TSMCが地元に先端R&Dセンター開設
「台湾にとどまる」決意を世界に宣言

 7月28日、台湾の新竹県宝山郷。世界の半導体産業を左右する先端基地が誕生した。半導体受託製造世界最大手のTSMCが、グローバルR&Dセンターを開設したのだ。

 延べ床面積は30万平方メートルと、サッカー場42個分の広さだ。将来的にはここで7000人のエンジニアが知恵を絞り、回路線幅が2nm以下の先端半導体や高速コンピューティング、人工知能(AI)サービス、自動運転、裸眼3D技術などに取り組む。

 TSMCの魏哲家最高経営責任者(CEO)は、同社は創業者のモリス・チャン氏が求める「誇張せず、見せびらかさない」という行動原則に基づいていると述べた。しかし今回は盛大なイベントを開催し、R&Dセンターの設立を世界に誇示した。これには、「TSMCは台湾にとどまる」という決意を世界に宣言する意味がある。

 劉徳音董事長(会長)は、R&Dセンターが半導体の2nmと1.4nmのプロセス技術を探究すると強調。今後20年間で、半導体で動く従来型コンピューターと量子コンピューター技術が統合され、革新を続けることでリーダーの地位を維持すると語った。

 この日登壇したチャン氏は、TSMCは創業初日から技術的に独立する道を志しており、オランダ・フィリップスの特許を取得するために高額の手数料を支払ったことを振り返った。以来、TSMCは世界の大手メーカーの特許に干渉されないよう、技術面で自立することに注力してきた。

 TSMCが技術の独立から技術のリーダーに至るまでには長い道のりがあった。世界をリードしていると自信を持って言える、7nmプロセスの半導体の量産までには30年かかった。

 20年近くにわたり、TSMCは売上高の8%を研究開発費に投じてきた。現在の年間売上高は2.26兆台湾ドルに迫り、研究開発費は55億ドルに達した。これは米マサチューセッツ工科大学の年間予算20億ドルをはるかに上回る額だ。

 R&Dセンターに足を踏み入れると、最も目を引くのは、3階の高さまで広がる大型の裸眼3Dスクリーンである。