中国の改革派の中心的立場にあった李克強前首相が急逝した。折しも不動産開発大手・碧桂園の米ドル建て社債が債務不履行になったばかり。6月末時点で同社の負債総額は1兆3642億元(約28兆円)であることを踏まえると、習近平政権のバブル崩壊への対応は後手に回ったと言わざるを得ない。中国経済は今後どうなるのか。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
李克強前首相死去で中国経済の改革は遅れる
10月27日、中国の改革派の中心的立場にあった李克強(リー・クォーチャン)前首相が死去した。李前首相は、鄧小平時代に始まった「改革開放」政策を重視した。また、李前首相は、習近平主席の出身母体である太子党とは異なる共産党青年団出身で、一時期、習政権の経済政策を立案する担当として重要な役割を果たした。
ただ、習政権の長期化とともに政策が政治優先に向かったこともあり、改革開放路線は後退したといえる。また、習政権の初期段階では、経済成長実現のため不動産などへの投資が高まり、高成長を突っ走ることができた。しかし2020年8月、過剰債務問題へ歯止めをかけるため習政権は、「三道紅線」(3つのレッドライン)という財務指針を導入して不動産デベロッパーへの融資を規制下に置いた。これをきっかけに不動産バブルが崩壊。その後、経済政策の運営は後手に回り、不良債権問題は深刻化し、デフレ圧力も高まった。
李前首相の死去により、共産党内で改革を重視する姿勢はさらに弱まるだろう。長い目で見ると、中国経済の改革は遅れることになるはずだ。不動産バブル崩壊への対応の遅れなどにより、中国経済の厳しさも増すとみられる。今後、社会保障などへの不安が高まり、中国社会の活力が失われることも懸念される。