碧桂園がデフォルト、不動産バブル崩壊が深刻

 その後、中国経済の改革機運は後退した。19年の全人代の政府活動報告で、李前首相は中国製造2025に言及しなかった。その理由は、米国への配慮との見方もある。

 対照的に、「習氏の権力強化」と解釈できる政策は増えた。過度な受験競争への規制や、思想教育も徹底した。アリババやテンセントなど、雇用を創出したIT先端企業への締め付けも強化した。習氏の側近といわれる人材の登用も増えた。習政権によって経済よりも政治の優先度が高まっていることは明らかだ。

 そして20年8月、共産党政権が3つのレッドラインを実施すると、不動産バブルは崩壊。土地譲渡益は減少し、地方政府の財政も悪化した。

 不動産開発大手の中国恒大集団(エバーグランデ・グループ)、碧桂園(カントリー・ガーデン)などは経営危機に陥り、地方政府傘下の地方融資平台の不良債権問題も深刻だ。雇用・所得環境は悪化し、経済全体でデフレ圧力が高まっている。

 10月26日には、碧桂園の米ドル建て社債が正式に債務不履行(デフォルト)したとクレジットデリバティブ決定委員会(CDDC)が認定した。6月末時点で同社の負債総額は1兆3642億元(約28兆円)であることを踏まえると、共産党政権のバブル崩壊への対応は後手に回ったと言わざるを得ない。

 李前首相が重視した銀行融資に関して、足元の伸びは緩慢だ。10月下旬、習政権は1兆元程度(約20兆円、中国のGDP比0.8%)の国債追加発行も発表したが、効果は限定的だろう。その見方から、発表直後、人民元、本土株ともに弱含みである。

 現在の首相である李強(リー・チャン)氏の発言を確認してみても、李前首相のような経済に関する的確な理解、あるべき政策、その理論的裏付けを読み取ることは難しい。不動産投資の減少や雇用悪化などに歯止めがかかる兆候も見いだせない。こうした状況下、中国国内でも経済環境の一段の悪化を警戒する銀行や企業は増えているはずだ。