民主主義を守ることができるのか
分岐点に立たされた米国の危機

 共和党がトランプ氏を批判できないのは、トランプ氏が共和党の本当の姿(実体、弱み)を見抜いたからではないかとスティーブンス氏は指摘する。

「トランプ氏は何らかの動物的な直感を持っていて、共和党はそれまで自分たちが信じていると主張してきたことを実のところは信じていない、ということを見抜いたのではないかと思います。共和党が自分たちの価値観だと主張していたものはマーケティング用のスローガンだったと。そしてトランプ氏は党に力を与えれば(支持者を増やすなど)、党は自分が望む方向に動くだろうと見抜いたのです。それがまさに今起こっていることです。これは異例なことです。主要政党が完全に乗っ取られるというのは米国の歴史上、これまでありませんでした」

 その上でスティーブンス氏は、「共和党がトランプ氏のような人物に党を引き渡したことは党だけでなく、米国の民主主義にとっても大きな脅威です」と警告した。

 民主主義を信じないトランプ氏とその熱狂的な支持者によって共和党が乗っ取られてしまったというのはショッキングなことだが、その結果、米国は非常に危うい状況に追い込まれた。

 米国はこれまでも1800年代半ばの南北戦争、1920年代から30年代にかけて起こった大恐慌、1950年代から60年代に展開された公民権運動などで社会の分断と対立が深刻化し、困難な状況に追い込まれたが、なんとか乗り越えてきた。

 今回は民主主義を守ることができるのか、それとも独裁体制に陥ってしまうのかという分岐点に立たされたが、はたしてこの危機を乗り越えることができるのだろうか。

(ジャーナリスト 矢部 武)