多様な働き方では「対話重視のマネジメント」が大切

永田 会社の組織風土改革PDCAの取り組みとして、組織風土診断の分析においては、組織風土に影響すると考えられる要因について、4つの切り口から解析し、施策の立案につなげているようですね。

根耒 はい。「多様性を受容する組織風土」と「チャレンジを後押しする組織風土」という2つを重要なアウトカムと置いたうえで、4つの切り口から分析しています。1つ目は「アクションプランの策定と実行」、2つ目は「1on1の実施状況」、3つ目は「労働時間の質と量」、4つ目は「マネジメント行動」です。「マネジメント行動」については、もともと、別の取り組みとして360度フィードバックを行っていますので、そのデータと掛け合わせて、どのようなマネジメント行動が組織風土に影響しているかを調べています。

永田 まず、1つ目の「アクションプランの策定と実行」から教えてください。

根耒 予想どおりではありますが、アクションプランを策定して実行している部署のほうが組織風土がよいということが分かりました。一方で、アクションプランがうまく回っていない部署では組織風土が良くなっていきませんので、そういう部署に対しては、私たちから働きかけて一緒に取り組みを考えるようにしています。

永田 2つ目は「1on1の実施状況」ですね。こちらは、「1on1チェック」というアンケート調査をしていると伺いました。

根耒 組織風土診断と「1on1チェック」のクロス分析を行っています。その結果、グループ会社全体で見ると、1on1を導入していない会社よりも導入している会社のほうが組織風土はよくなっていることが分かりました。さらに言えば、月1回以上という高頻度で行っている職場や、内容的な満足度が高い職場ほど組織風土が良好であることも分かりました。

永田 1on1の実施率は、今年(2023年)2月の時点で88.6%だったそうですね。これはかなり高い数字だと思います。導入や定着にはどのような工夫をされてきたのですか? 

井ノ上 2018年度に働き方変革がスタートして、多くの社員が時間や場所にとらわれない働き方をするようになりました。当然ながら、それに伴ってマネジメントが複雑になり、コミュニケーションの重要性が高まったのです。そこで、一人ひとりの成長機会の創出と支援を目的に1on1を導入することにしました。導入時には、グループ会社を含めた役員・部署長・人事担当者の方々を対象に説明会を実施しました。お伝えしたのは、「なぜ、1on1を導入するのか?」という目的と、「これから何をしていくのか?」ということですね。同時に社員向けのガイドブックを作って配布したり、当時400名いた管理職と係長職200名全員に1on1の基本の型を伝える学習会を実施したりしました。

永田 導入時に、かなりの努力をされたのですね。2年目以降はいかがでしたか?

井ノ上 2年目以降は、1on1を定着させることに軸足を置きました。2020年からは、昇格対象者も学習会を受講しているので、グループ企業の職責者は全員が受講を完了している状況です。定着にうまく導けたのは、導入説明会でグループ各社の理解を得られたことと、半期に1度の「1on1チェック」で実施状況や満足度を調査し、人材部門から1on1の満足度向上に向けたメッセージを発信し続け、次の打ち手につなげていることが大きいですね。

永田 「1on1チェック」は、半期に1回、全社員を対象に行っているのですね。その結果を人材戦略部がまとめ、発信しているとのことですが、どのような内容なのでしょう?

井ノ上 導入当初の課題は「定着」だったのですが、現在は「質の向上」にシフトしているため、実施率や満足度、特徴的なコメントなどを全社員に発信して、質の向上に役立てています。また、結果を分析し、満足度の向上という観点から見えてきたことが3つありましたので、そちらもメッセージとして発信しています。1つ目は、実施頻度を上げること(最低、月1回30分の時間を確保すること)。2つ目は、上司が積極的に傾聴を行うこと。3つ目は上司と部下がそれぞれ事前準備をして臨む必要があること、です。

永田 1on1を受ける部下側からのコメントとして、印象に残っているものはありますか?

井ノ上 上司からの投げかけにより、「違う視点から物事を考えられるようになった」「日頃、中長期的なキャリアの話はなかなかできないけれど、定期的に1on1を行うことによってキャリアについても相談できるようになった」といった声がよくあがります。リモートワークを取り入れると、コミュニケーションに問題が生じがちですが、1on1の時間を持つことによって上司との信頼関係が築けることは大きいですね。働き方が多様になったからこそ、さらに1on1の質を向上させていきたいと考えています。

永田 統計分析の残りの2つについても教えていただけますか?

根耒 3つ目は「労働時間の質と量」がどのように組織風土に影響を与えるのか、という点です。これは、組織風土診断と同時に実施している「時間の使い方調査」という調査の結果とのクロス分析です。時間の使い方調査とは、それぞれが実施している業務を、付加価値を生んでいる業務と生んでいない業務に分類してもらって、業務にあたっている時間のなかで付加価値を生んでいる業務にあたっている時間を「チャレンジの時間」だと考えたときに、どの程度の割合でそこに時間を割くことができているのかを調査するものです。さらに、その時間の使い方について、本来の自身の役割から見た理想の使い方と現実の使い方にギャップが生じていないかを調べる内容となっています。結果を見ると、自身の理想どおりの時間の使い方をできている方は組織風土を良く認識し、思うように時間を使えていないと感じている方は組織風土を相対的に悪く認識しがちだということが分かりました。時間の量の観点では、総実労働時間とのクロス分析を行いましたが、2018年度以来の働き方変革によって多くの社員の総実労働時間が短く抑えられていることもあってか、今回の分析からは統計的に有意な結果は得られませんでした。

永田 4つ目の「マネジメント行動」についてはいかがでしょう?

根耒 中核事業会社であるハウス食品の社員のみを対象にした360度フィードバックで用いている評定結果とのクロス分析では、「上司のマネジメント行動に満足度が高い方ほど、組織風土を高く評価している」という結果が出ています。この360度フィードバックの項目は、「ハウス行動モデル」という弊社の行動規範を明文化した10項目から成っていて、そのうちの「マネージャーが部下を育てる」という項目が多様性受容の組織風土に、「マネージャーがビジョンを描く」という項目がチャレンジを後押しする組織風土に強く影響していることが分かりました。

永田 統計分析の結果により、何が「多様性を受容する組織風土」と「チャレンジを後押しする組織風土」を作り上げているのかを検証されているのですね。ダイバーシティの実現に向けた御社の施策がよく理解できました。本日はありがとうございました。

ダイバーシティを実現する、ハウス食品グループの“組織風土改革”とは?

聞き手●永田正樹 Masaki Nagata

ダイヤモンド社HRソリューション事業室顧問
ビジネス・ブレークスルー大学大学院助教
立教大学大学院経営学研究科リーダーシップ開発コース兼任講師

博士(経営学)、中小企業診断士、ワークショップデザイナーマスタークラス。「アカデミックな知見と現場を繋ぎ、人と組織の活性化を支援する」をコンセプトとし、研究者の知見をベースに、採用・育成・定着のスパイラルをうまく機能させるためのツールやプログラムの開発に携わる。また、企業のOJTプログラムや経験学習の浸透のためのコンサルテーションも行っている。