退職日を1日遅らせるデメリットも考慮する

 退職日をどう定めるかは会社の就業規則で決まっていますが、法律で決まっているわけではありません。そのため、本人の希望に添い、柔軟に運用してくれる企業もあります。少し遅らせれば勤続年数が1年増える場合は、定年退職日の調整ができないか交渉してみる手はあるでしょう。この裏ワザは2度目の退職金の支給時にも活用できます。

 ただし、決められた退職日をずらすと定年退職の扱いではなくなり、自己都合退職になる企業もあります。離職理由が自己都合だと退職金が減額される場合があるほか、失業保険を受けるまでの待機期間が長くなってしまいます。定年ではなく自己都合になることで勤務先に大きな不利益はないので交渉すべきではありますが、退職所得控除を1年増やすことにこだわると、デメリットのほうが大きくなる場合があることは覚えておく必要はあるでしょう。

 2023年の政府の骨太方針では、自己都合退職者の退職金を減額する労働慣行の見直しや、自己都合退職でも短い待機期間で失業保険を受けられるようにすることも検討されています。最新の状況をチェックして判断しましょう。

一時金・年金・併用。退職金はどう受け取るのがトクか?

 退職金は多くの場合、一時金として一括で受け取るか、年金として分割で受け取るか、あるいは両者を併用するかを選ぶことができます。単なる受け取り方の違いだけでなく、支払う税金の額が変わるため、注意が必要です。

 退職金の額が退職所得控除の範囲に収まる場合は、一時金で全額受け取るのが最も有利になります。退職金の額が退職所得控除の額を超える場合は、控除を受けられる分だけ一時金で受け取り、はみ出した分を年金で受け取るとよいでしょう。年金で受け取る分には「公的年金等控除」という控除があるので、この範囲内に収まれば超えた分も非課税で受け取ることは可能です。

 公的年金等控除を活用すれば、65歳未満なら年60万円、65歳以上なら110万円までは無税で受け取ることができます。たとえば、勤続年数が40年で退職金が2500万円の場合、60歳の定年時に退職所得控除を受けられる2200万円を一時金で受け取り、残りの300万円を年60万円ずつ5年かけて受け取ると、公的年金等控除の範囲内に収まるので、全額非課税となる計算です(65歳以前の年金がない場合)。これから60歳を迎える人の多くは65歳から年金の支給が始まりますが、公的年金等控除は60歳から使えるので、この5年間の控除枠を活用すると有利になります。