新・理系エリート#3Photo:PIXTA

半導体受託生産の世界最大手である台湾TSMCが熊本県に、国策半導体メーカーとして誕生したラピダスは北海道に、それぞれ工場を開設する。これを受けて熊本大学は半導体の新学科を開設、北海道大学も半導体の研究開発および人材育成の拠点として攻勢をかける。もっとも、受験生には「情報系との二股ルート」が用意されている。特集『新・理系エリート』(全59回)の#3では、国策で復興を目指す半導体産業に絡めて、電気・電子・通信系および機械工学系の計199学科について10年間の偏差値の推移を一挙掲載する。(ダイヤモンド編集部副編集長 臼井真粧美)

半導体復興にぬぐえぬ不安
北大と熊大にリスク回避の抜け道

 半導体産業への就職を目指して進学するわが子に対し、親からの賛否は分かれる。賛成派が「人材不足が進むから」と背中を押し、反対派は「リストラにあうぞ」とブレーキを掛ける。国内半導体が凋落を経て復興を図るタイミングにあるが故、見立てが分かれるのだ。

 半導体受託生産の世界最大手である台湾TSMCは熊本県に、次世代半導体の国産化を目指して誕生した国策会社のラピダスは北海道に、それぞれ半導体工場の建設を進めている。背景にあるのは、米中対立など地政学リスクが高まる中での経済安全保障の観点だ。

 半導体はスマートフォンや家電、自動車などに使われ、あらゆる産業に不可欠であることから「産業のコメ」と呼ばれる。各国・地域が半導体を自国で製造できるように巨額の国費を投じるようになり、日本もそれに倣った。

 ものづくりにとって重要な産業であっても、親世代には大量リストラの記憶が頭にこびりついている。1980年代まで日本は世界シェアの半分を握っていたが、そこから転げ落ち、2000年代前半から半導体産業にリストラが横行した。

 実力のあるハイスペック人材は韓国大手など外資から2000万や3000万円台の高報酬で迎え入れられたが、それも一部に限った話。多くの者は転職や配置転換を余儀なくされた。

 半導体を中心としたものづくりを学べる人気学科だった電気・電子系のイメージは悪化し、学部・学科名を変える大学もあった。学生の就職先は半導体そのものではなく、半導体を使う自動車・部品メーカーに移ったり、学力優秀層は進学の段階で就職を見据えて医学部へ、近年ではデータサイエンスを学べる情報系学部・学科などに流れたりしている。

 目下のところ、国策で半導体復興が推し進めるも、修士を取るなら就職までに6年。6年後に国内の半導体産業が元気なのか、現段階では見通し切れない。

 それでも地元に新工場が開設されるのを契機に、熊本大学と北海道大学は半導体人材育成の強化を掲げた。熊本大は学科に相当する「半導体デバイス工学課程」を24年4月に開設する。

 不安がぬぐい切れない中にあって、両大学にはリスク回避の抜け道が実はある。半導体系と情報系の“二股ルート”だ。

 次ページでは、二股ルートの全貌と半導体をとりまく大学の序列、人気の実態をつまびらかにする。また、半導体分野のメイン学科である電気・電子・通信系、および機械工学系の計199学科の10年間の偏差値推移を大公開する。