過去数十年の間、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムなど東南アジアにおいて日本の自動車メーカーはトップシェアを獲得した。しかし、ここ数年、状況は急変。タイでは、BYD、上海汽車、長城汽車など中国の自動車メーカーがEVの生産・販売体制を急速に強化している。テスラでさえ、BYDに追いつくのは容易ではないようだ。日本メーカーは全方位型の戦略を続ければ、EVシフトの遅れは深刻化し、これまで以上に東南アジアでシェアが低下するだろう。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
東南アジアの自動車市場は
もはや日本勢の牙城ではない
東南アジアの自動車市場でシェアが大きく変化している。中国の比亜迪(BYD)は、急速に電気自動車(EV)の生産体制を強化し、短期間でEVの販売台数を増やした。一方、ハイブリッド車の分野でわが国のメーカーはシェアを守っているものの、EV車部門での退潮ぶりは鮮明だ。
気になるのは、トヨタ自動車、日産自動車、三菱自動車、ホンダをはじめとした日本メーカーの事業戦略だ。BYDや米テスラはEVに集中し、世界全体でより大きなシェア獲得を目指している。一方、わが国の自動車メーカーは、“全方位型”の戦略を重視する。EVの新モデルやバッテリーなどの開発、生産能力増強に向けた投資などの点で、BYDをはじめとする新興のライバルは、わが国の自動車メーカーを引き離しにかかっているように見える。
そうした状況下では、日本経済を支えた自動車産業の国際競争力が低下し、経済全体に負の影響が及ぶ恐れがある。自動車を巡る革新は、自動運転や空飛ぶ自動車などさまざまな方向に進むことが想定される。日本の自動車メーカーも、世界的な変化の方向を的確に見極めながら、迅速に意思決定を行っていくことが求められる。生き残りのために、厳しい時代が続くと覚悟した方がよさそうだ。