なぜ東南アジアで
BYDらの動きが活発になっているのか
過去数十年の間、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムなど東南アジア新興国において、わが国の自動車メーカーはトップシェアを獲得した。1960年代から日本の自動車メーカーはタイなどに直接投資を行い、工場建設、輸出の増加、販売網の整備などは東南アジア諸国の経済成長を支えた。内燃機関や電装品などを生産する日系企業も進出し、その結果、タイの自動車産業は“アジアのデトロイト”と呼ばれるまでに成長した。
なお、タイにおけるわが国の自動車産業の存在感の高まりを参考に、マレーシアでは国策の自動車メーカーであるプロトンが誕生した。85年の事業スタート直後、プロトンは三菱自動車からの技術供与をベースに生産能力を高めた。
数え方にもよるが、エンジン車には3万?5万点もの部品が使われる。それを精緻にすり合わせて完成車を製造する技術の移転、直接投資による雇用創出など、わが国の自動車関連企業はアジア新興国の経済成長に寄与し、見返りにトップシェアを獲得した。
しかし、ここ数年、状況は急変した。タイでは、BYD、上海汽車、長城汽車など中国の自動車メーカーがEVの生産・販売体制を急速に強化している。足元、中国勢はタイのEV市場の7割近いシェアを獲得したと推計される。
インドネシアもEV関連の産業政策を強化した。ジョコ政権は、豊富な鉱山資源を活用して、BYDや世界最大の車載用バッテリーメーカーである寧徳時代新能源科技(CATL)、韓国の現代自動車などの直接投資を誘致した。EVの川上から川下、さらには輸出拠点としてインドネシアは競争力を高めようとしている。
その状況にタイ政府は危機感を強め、BYDなどへの支援を強化した。マレーシアにはテスラが進出し、ベトナムではビングループがEV分野に参入した。東南アジア地域のEVシフトは鮮明だ。