ドイツから人材を引き抜くBYD
テスラでさえ追い付くのは容易ではない

 エンジン車を含めると東南アジア自動車市場において、まだ、わが国の自動車メーカーはシェアを維持している。各社に共通するのは、エンジン車、HV、PHV、EV、FCV、さらには水素エンジン車など、全方位の戦略を敷いていることだ。

 東南アジア諸国の多くは熱帯に属し、気温は高い。インフラも発展途上だ。エンジン車から電動車まで幅広い選択肢を消費者に提示し、需要をすくい取る。それが、日本メーカーの方針と言える。

 しかし、東南アジア諸国の産業政策は、EV重視が鮮明だ。EVは、大気汚染や地球温暖化への対応のためにも重要であり、そのため、ある国がEV支援策を強化すると、他の国が一段と支援策を強化するというように、EV関連の政策重視姿勢が強まった。

 それを追い風に、BYD、テスラや韓国勢、東南アジア諸国のローカル企業はEVの生産能力を集中的に強化している。特に、BYDの技術革新には、他の追随を許さないほどの勢いがある。同社は、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーの研究開発を強化し、コスト、安全性、航続距離の向上を実現した。

 BYDは、わが国でも販売予定のセダン型EV「シール」に、バッテリーをフレーム(シャシー)に直接組み込む技術(セル・トゥ・シャシーなどと呼ぶ)を用いる。パワーコントロールなど車載用半導体も自社で開発・生産し、自社の駆動装置(Eアクスル)に組み込む。BYDはドイツの自動車業界などから人材を引き抜き、デザイン、車内空間の性能向上にも取り組んでいる。

 開発スピードを徹底して引き上げたことで、BYDは急速にシェアを広げている。中国のEVメーカーは輸出能力強化のためにも、タイにおける投資を強化している。テスラでさえ、BYDに追い付くのは容易ではないようだ。

 そうした状況下で、日本メーカーがこのまま全方位型の戦略を続ければ、EVシフトの遅れは深刻化するはずだ。これまで以上に東南アジア市場でシェアが低下するだろう。そうした危惧を抱かせるほど、東南アジア市場におけるBYDなどの攻勢姿勢は強い。