「わかったつもり症候群」を防ぐには?

 心理学者のダニングとクルーガーは、成績が悪いのにそうした自分の問題に気づけない人たちの理解力を鍛えれば、自己認知が進み、自分の能力の問題に気づけるのではないかと考えた。そして、能力の低い人物に自分の能力の現状を認識してもらうための介入実験を行っている。

 その結果、読書をすることで認知能力を鍛えれば、自分の能力を過大評価する傾向が弱まることが証明された。読書により読解力が高まることは多くの研究により実証されているが、それによって自己認知能力も高まり、「わかったつもり症候群」から脱することができるというわけである。

 もっと直接的にメタ認知のトレーニングをするという方法もある。知能が遺伝に大きく規定されているのに対して、メタ認知能力はトレーニングによっていくらでも向上させられることが、さまざまな実験によって証明されている。「わかったつもり」を防ぐために、メタ認知的モニタリングの姿勢を植えつけるトレーニングを行うことができる。

 心理学者のデルクロスとハリントンは、メタ認知的モニタリングの能力向上のためのトレーニングを行っている。そこでは、「問題を注意深く読んだか」「問題を解くための手がかりは見つかったか」など、問題そのものやその解法についてじっくり考えるように導く質問を行い、また何点くらい取れたかを尋ねた。

 その結果、そのようなトレーニングを受けたグループは、受けなかったグループと比べて、成績が向上するとともに、予想と実際の成績のズレも改善されることが示された。

 このような結果は、メタ認知的モニタリングを促すトレーニングによって、問題をめぐってじっくり考える姿勢が促され、同時に自分の理解度に関してもじっくり振り返る姿勢が促されたと解釈することができる。

 ここから、「わかったつもり」を防ぎ、成績の向上を目指すには、勉強しているときの姿勢や問題を解いているときの姿勢を振り返るように心がけるのが有効だとわかる。