とはいえ、ホバーバイクは日本をはじめ、世界の大半の国で現行法上は公道を走ることはできない。そうした状況にもかかわらず、なぜA.L.I.Technologiesは“夢物語”とも思えるようなホバーバイクの開発に取り組むことにしたのか。同社の挑戦、そしてその熱量の源泉について、片野氏に話を聞いた。

人生を変えた、スターウォーズ好きとの出会い

──単刀直入にお伺いします。なぜ、ホバーバイクを開発しようと思ったのですか。

まず、当社の設立経緯から説明させてください。2016年9月に会社を設立し、ホバーバイクの開発に着手したのが2017年ごろのことです。当時、私は経営者としてではなく、投資家として関わっている状況でした。ホバーバイクのコンセプトを考え、開発などを主導していたのは、代表取締役会長を務める小松周平でした。

もともと小松自身、スターウォーズの大ファンで、映画に出てくるホバーバイクのようなエアモビリティ(スピーダー・バイク)が社会にどんどん実装されていく未来を描いていたそうなんです。

A.L.I.Technologiesはもともと、ドローンやAIなどに関する共同研究開発事業で、そのビジネスで黒字化を達成していました。その収益を投資するかたちで、ホバーバイクの開発が始まっていったんです。

ホバーバイクを開発することで、将来的には個人が移動することもそうですが、それ以外にも砂漠、湿地帯、地雷汚染地域のような従来のモビリティでは移動が困難とされてきたエリアも移動でき、荷物の搬送などに役立てるかもしれない。そうしたニーズも踏まえ、将来的にはエアモビリティの市場が大きくなっていくはずだ、という考えもありました。

──片野さんは、なぜ株主からフルタイムで働く選択を。

シンプルに「夢のあるビジネス」だと感じたからです。私自身、それまでは友人たちと立ち上げたコンサルティング会社で働いており、主にヨーロッパの企業を担当していました。

当時ロンドンに住んでいたのですが、共通の友人の紹介で小松と知り合い、出資の相談を受けたんです。「今はまだ誰も本気になっていないけれど、将来的に必ず必要になるモビリティだからぜひ一緒にやりませんか」と。

2018年の話なので、経済産業省が(空飛ぶクルマの実現に向けて有識者と話す)「空の移動革命に向けた官民協議会」を組成する前のこと。エアモビリティに対する世の中の理解も認知度もまったくないような状態でした。

それでも小松が描く未来の姿に、とてもワクワクしたんです。また、小松は東京大学でエネルギー工学を学んでいたこともあり、技術開発に大きな強みを持っています。一方、私はコンサルティング会社で働いた経験から、会社の経営に強みを持っています。小松が開発を見て、私が経営を見る。お互いの強みが明確に分かれており、それぞれが自分の持ち場で強みを発揮した方がうまくいくと思い、2019年から社長になることを決めました。