日本にはマザーズという世界で最も上場しやすい株式市場が存在しており、長らくマザーズがレイターステージの役割を果たしてきました。その一方、未上場段階で大きな成長資金を提供できる出し手は限られていました。そのため多くのスタートアップは時価総額が数百億円前半程度の段階での上場を選択せざるを得ず、個人投資家主体の株主構成など、IPO後の継続成長を実現するうえでの課題に直面してきました。

こうした課題を「第二の死の谷」と私は呼んでいますが、その克服のためにもレイターステージという市場の開拓こそが必要だと考え、2017年のシニフィアン設立以降、グロースキャピタル「THE FUND」の運営などに取り組んできました。

ここ1、2年、海外投資家に留まらず、新たなグロースキャピタルの参入や既存VCの規模拡大などが進みました。2021年秋にはソフトバンク・ビジョン・ファンドの国内参入も報じられました。昨年の記事でも触れたように、マザーズ上場後の資金調達機会が普及してきたことも相まって、いよいよ「第二の死の谷」問題は解消されつつあると考えています。

加えて、2021年はPayPalによるPaidyの3000億円での買収も大きな話題になりました。マイノリティー出資、バイアウトを問わず、海外プレーヤーにとって日本のスタートアップが魅力的な投資対象となったことが伺える象徴的な出来事でした。こうした海外勢の参入に対し、日本の投資家や企業は外資に機会を奪われていると批判する声も目にするようになりました。この手の主張を私は「スタートアップ攘夷論」と呼んでいますが、資金供給者の視点に偏った見解ではないかと思わないでもありません。何より肝心なのは、「スタートアップの成長が実現できるかどうか」という点であり、リスクマネーの提供やイグジットの機会が増えてきたことは歓迎すべきだと捉えています。

一方で資金の需要者であるスタートアップ側でも今後、調達する海外マネーの選別が進むことでしょう。「海外投資家」と言っても、VC、機関投資家、ヘッジファンド、ファミリーオフィスなど、アセットクラスや“格”も異なる全ての投資家をひっくるめた幅広い概念であって、特色は十人十色であるからです。最近の海外投資家信仰にはある種の流行的な雰囲気を感じさせるものがありますが、事例が重なることで理解も深まり、国内外を問わず、より「お金の色」を意識した取捨選択が増えることでしょう。