こうした流れの行き着く先として、国内スタートアップの大買収時代が到来することを、希望も込めつつ私は妄想しています。周知の通り、米国スタートアップのイグジットの9割がM&Aによるのに対し、日本のイグジットはマザーズ上場一本足といったきらいがあります。スタートアップのM&A事例が増加すれば、より現実的なイグジットを視野に入れた起業家の参入、並びにイグジット経験を得たシリアル・アントレプレナーの増加を促すことができ、日本のスタートアップ・エコシステムがより強固なものになることでしょう。

米国の場合、スタートアップを買収するプレーヤーの多くはスタートアップ出自の上場企業ですが、日本において急速にPost-IPOスタートアップが増えてきていることを思うと、国内スタートアップのM&A増加は十分に可能性があるのではないかと楽観的に見ています。

現実に目を向けると、2021年にはチェンジ、freee、マネーフォワード、ギフティといったPost-IPOスタートアップが機動的なM&Aによる成長を狙い、100億円規模の資金を調達しています。ABB(Accelerated Book Building、短期間でブックビルディングを実施し、募集条件を決定する手法)による海外公募増資の普及を踏まえると、2022年もPost-IPOスタートアップによるM&A待機資金の獲得が進むことでしょう。

また、中には高い株価を活用し、株式交換での買収を狙う高成長Post-IPOスタートアップも出現することでしょう。このように、SaaS領域を中心にして上場/未上場をまたいだスタートアップの合従連衡が進む流れのことを、私は「SaaS最終戦争論」と呼んでいます。

思い返すと、こうした合従連衡による成長は、20年弱前のライブドアが企図していたことでもあります。スタートアップに留まらず、伝統的なメディア大企業をも対象にした成長戦略がどのような帰結を迎えたのかは周知のとおりですが、ひょっとしたら2020年代の今であれば、もう少し違った展開も期待できるのかもしれません。

先にスタートアップの市場再編が進むと述べましたが、こうした動きがスタートアップのみにとどまらず、日本産業界の大再編にまで発展することを、私は期待しています。