また2021年末からのグロース株急落を受けて、日本のスタートアップへの投資に及び腰になる海外投資家も見られます。この点、国内プレーヤーで大規模調達の受け皿となれるかどうかも、日本のスタートアップ・エコシステムにとっては重要な論点と考えています。

2022年の投資環境の変化や注目領域・プロダクトについて

起業家が10年以上先の未来を見据えて事業構築を図っている中、1年単位のトレンド予測にあまり意味があるとは思えません。

そのうえで、中長期の重要テーマになり、なおかつ2022年中にも新たな動きが出るであろう分野として、現代を生きる人類にとって最重要な課題である脱炭素、そしてスマホ以来久々の“The Next Big Thing”を感じさせるWeb3に注目しています。マズローの欲求5段階説のピラミッドで言えば最底辺と頂点に位置するような対極の領域ですが、どちらもスタートアップだからこそアプローチし得る課題と捉えています。

この点、両分野共に規制当局との対話が求められますが、特にWeb3に関しては税制面がネックとなり、起業家の海外流出が進みかねないことは懸念しています。

また短期では、現時点における国内スタートアップシーンのけん引役であるSaaS系スタートアップを中心に、上場・未上場の垣根を超えてエンタープライズ向けスタートアップの再編が進み、新たな勢力図が3年程度のスパンで固まると見ています。

一般論として数多くのスタートアップが台頭しているSaaSやHRの領域は、日本特有の商慣習・雇用慣行が海外企業に対する参入障壁として機能しています。その反面、こうした領域のプレーヤーは国内市場に最適化することが競争戦略上の合理的な判断であるため、プロダクトをそのまま他の地域で提供するのが難しく、海外展開では制約を受けてしまいがちです。

一時に比べると上場SaaS各社のセールス・マルチプルも落ち着きつつありますが、海外SaaS企業が多地域展開の想定のもとに評価されるのに対し、海外進出が困難な国内のエンタープライズ向けPost-IPOスタートアップが現状の評価を正当化するためには国内での成長維持が欠かせません。この点、既存プロダクトのみではどうしても市場サイズに限界があるため、事業の複線化が上場各社にとっての主要課題となります。

実際、先行するPost-IPOスタートアップにおいて、オーガニックに新事業を構築する事例が見られますが、既存領域とは異なる魅力的な「飛び地」での新規事業創出を企図する結果、従来はまったく異なる事業カテゴリーだった会社同士が突如として競合になるといった事態も生じています。今後もスタートアップを取り巻くフレネミー状況はますます複雑化することでしょう。早晩、SaaS、HR、FinTech、AIといった事業カテゴリーの垣根を超えて、エンタープライズ向けスタートアップはホリゾンタルやバーティカルに関わらず、すべからく競合、連携、合従連衡の関係に至り、市場全体の再編が進むはずです。