そのツクルバが上場に向けて着実に事業と組織が拡大する途上で、中村氏は葛藤を抱えるようになっていった。

「ツクルバの創業者として『代表らしくあらねば』と考えすぎるようになっていました。そこで僕自身の原体験を深掘りする『内省プロセス』を試してみたところ、本来ありたい自分と乖離(かいり)し始めていることに気づいたんです」

「そもそも僕は建築デザイン出身で、ゼロイチで事業を作り上げていくのが得意。相方の村上はビジネス畑。そう考えると、お互いに得意な領域で役割を果たしたほうがいい。そのため村上は引き続き代表を務め、僕はツクルバの枠組みを超えた活動を通じて、生み出した価値をツクルバに還元することへ軸足を移したのです」(中村氏)

このとき、中村氏に衝撃を与えたのが内省プロセスだった。内省プロセスでは「なぜそう思うのか」「今ある感情の出どころはどこか」を考える。つまり、自身の感情こそが課題解決へ近づくヒントであると身を持って知ったという。

ならば「感情」をキーワードに、以前までのオフィスで雑談として交わされていた気軽な情報共有や1on1の代替となるサービスをつくれないか──。そうしてemochanの構想が誕生する。

しかし、当初のemochanは8種類の感情が描かれたカードゲームに過ぎなかった。クラウドファンディングを通じて支援者を募り、ユーザーの活用事例を見ながら使用方法を見いだし、ウェブサービス化するつもりだった。その矢先にコロナが発生した。

「各社がリモートワークとなり、人と人が直接触れ合うことが激減しました。そのなかでカードゲームを展開するのはさすがに難しく……。そのため現在のサービスへピボットしたのです」(中村氏)

KOU代表取締役 中村真広氏
「自身の感情こそが課題解決へ近づくヒントだった」と語る中村氏(画像提供:中村真広氏)

サービスの役割は「対話のきっかけ」と「ファシリテーション」

今回、法人向けに正式リリースしたemochanは、1on1ミーティングや会議開始前のチェックイン(会議への意気込みや今の状態を共有する時間)の進行を助けるサービス。サービス名に「emotion(感情)」の「emo」が付くように、各社員の感情を切り口に対話を促すことが目的だ。リモートや在宅勤務でもに使えるよう、オンライン・オフライン問わず使える設計になっている。価格は30名までの利用で月額2万円(税別)から。

「emochan」の画面イメージ
「emochan」の画面イメージ (画像提供:KOU)

主要機能は「check」と「dive」の2つ。「check」は、会議冒頭で参加者らが「今感じていること」を「ウキウキ」「ニコニコ」といった8種類の感情アイコンから選択。その理由をシェアした後、会議をスタートさせる。