ハチやハエに依存していた「授粉」をロボットで自動化

食料問題や農業就業人口の減少、食の衛生面・安全に対する関心の高まりなどの影響を受けて、植物工場への注目度が増してきている。ただレタスなどの葉物類は植物工場での栽培が広がる一方で、イチゴのような果菜類の工場栽培はあまり進んでいないという。

HarvestXの創業者で代表取締役社⻑を務める市川友貴氏によると、ネックになっていたのが「受粉」だ。

果菜類を扱う多くの植物工場では、ハチやハエを飼育して受粉を行っている。だがどうしても受粉精度がばらつくほか、飼育管理のコスト、ハチの死骸の腐敗による衛生環境の悪化や病害リスクの増加などいくつかの課題があった。

この受粉をロボットに置き換えることができれば、植物工場本来のメリットとの相乗効果が期待できるのではないか──それがHarvestXの考えだ。

ロボットによる授粉の様子
ロボットによる授粉の様子。アームの先端につけたブラシで花粉を塗る
ラボ内を巡回するロボットの様子
ラボ内を巡回するロボットの様子

近年は自ら植物工場を展開するスタートアップも増えているが、​​同社では今のところ“植物工場をサポートするためのロボットを開発する”というアプローチを採っている。

HarvestXのロボットは次のような流れで作業を進めていく。まずは床に貼ったテープの上をたどるかたちで定期的に植物工場を動き回りながら花や果実の様子を撮影する。次に集めた情報をもとに、検出システムを用いて成熟度などのイチゴの状態を細かく解析する。その後は設定したパラメータに基づいて、適切なタイミングでアームを動かしながら自動で授粉や収穫作業を実行する。

コアとなる技術要素は大きく3つ。花や果実の状態の検出・分類を行うニューラルネットワーク、検出したものに対してどのようにアームを動かすかをコントロールするための制御システム、そして実際に授粉や収穫を行うアタッチメント(ハードウェア)だ。

たとえば検出システムに必要となるデータセットを作る上では、CGを用いて効率的に生成できる技術を自社で開発した。

当初は農園や植物工場で実際に撮影した画像をアノテーション(教師データを作るためにラベルを付ける作業)していたが、それではイチゴの別の品種や他の果菜類に対応する度にコストと時間がかかる。そこでCGを使って効率的かつスピーディーにデータを集められる仕組みを作った。

画像データを基に検出や分類を行っていく
画像データを基に検出や分類を行っていく

同じように「花の向き」に関する教師データを作る上でもCGを活用。このデータを用いて花の向いている方向を推定する技術(法線ベクトル推定)も生み出した。授粉精度を上げるには花に対して垂直にブラシを当てる必要があるが、従来の検出技術では花の向きを特定することが難しかったため、自社で開発したのだという。