このように授粉・収穫ロボットにはさまざまな技術が求められるが、ロボット開発の経験者が多いのもHarvestXの特徴だ。市川氏は大学在学時代から大手電機メーカーやスタートアップで組み込み機器の開発に携わり、2020年には未踏スーパークリエータにも認定された人物。同氏を中心にこの領域に知見を持つメンバーが集まっている。

高精度の授粉で生産量をコントロール、持続可能な農業の実現も

授粉や収穫をロボットが自動でこなせるようになると、どのような変化があるのか。

まず大きいのが授粉が安定することだ。授粉を制御できるようになることで生産量をコントロールしやすくなるほか、虫を使用しないため衛生面も管理しやすい。

市川氏によると授粉精度が果実の形状にも直接影響するため、「いかに均等に高精度に授粉ができるかどうか」が最終的には出荷量にも大きく関わってくるという。授粉が安定して出荷量が増えれば、導入企業は利益の拡大も見込める。

これまでブラックボックスになっていたデータの収集や分析が進むこともメリットだ。苗のデータを1株単位で収集することで、栽培環境の変化が苗に与えた効果を評価できる。このデータは予測モデルと組み合わせれば、収量予測の精度向上にも役立つ。

またロボットによる授粉を実用化できれば世界的に減少傾向にあるハチを使い捨てせずに済むため、「持続可能な農業を実現するための有効な手法になる」(市川氏)という。

このような授粉を自動化することによる変化に加えて、収穫作業も自動化することで作業者の負担が減り、空いた時間を他の仕事に使えるようにもなる。市川氏の話ではイチゴの大きさを認識することで「イチゴのサイズに応じた仕分け作業」など、収穫後の工程も一部効率化できる見通しだ。

東京大学本郷キャンパス内に構える研究開発施設「 HarvestX Lab」
東京大学本郷キャンパス内に構える研究開発施設「 HarvestX Lab」

植物工場での授粉ロボ稼働目指し1.5億円を調達

会社の創業は2020年の8月だが、HarvestXのプロジェクト自体はそれより2年近く前の2018年12月に始動した​​。

もともと中学生のころからプログラムを書くのが好きだったという市川氏。学生時代はものづくりに熱中し、千葉工業大学在学時には個人事業主として組み込み機器の受託開発もしていた。

「ロボット技術を農業現場の課題解決に活かせないか」と考えるようになったのも、個人で農業系の開発案件に携わったことがきっかけだ。2018年から東京大学のものづくりスペースである本郷テックガレージを拠点に、イチゴの収穫ロボットのプロトタイプを作り始めた。

ちなみにイチゴを選んだのは、何よりもまず市川氏が「イチゴを好きだった」ことに加えて「1年を通して需要があり、なおかつ単価が高い果物だった」から。ビジネスとして実用化する上では収益化する必要があるため、その観点でもイチゴが最適だった。