ライドシェア、次世代バイク便からの2度のピボット

Azitの設立は2013年11月。もともとは、自家用車の運転手と移動したい乗客をマッチングさせるライドシェアサービス「CREW(クルー)」を2015年から提供していた。

CREWは乗車を希望するユーザーがアプリを使って配車を依頼すると、近くを走行する「CREWパートナー」とマッチングされ、目的地まで送迎されるという仕組み。日本では自家用車による有償運送は、いわゆる「白タク」行為として禁じられている。そのため、「運賃」を「任意の感謝料」に置き換えることで、サービスを成立させていたが、「運転手の仕事が奪われる」としてタクシー業界から反発を受けていた。

こういった背景から、資金調達が難航。2019年には資金繰りが悪化し、40人ほどの社員、そしてほぼ全員のアルバイトを対象に、整理解雇を実施した。

そうした状況下でも「CREWは続けていこうと思っていた」(吉兼氏)そうだが、コロナ禍で利用者が激減。2020年1〜3月ごろには利用者が100分の1になってしまったこともあり、サービスをピボット(方向転換)することを決めたという(編集部注:現在CREWは長期の運営休止中。事実上、サービス終了の状態にある)。

CREWの運営で培ってきた、運転手と乗客のマッチングを最適化する技術やアルゴリズムを活用した効率的な配車の仕組みを活用するかたちで、2020年8月にスタートさせたのが前述のCREW Expressだ。リリース当初は“次世代バイク便サービス”をうたい、既存のバイク便と比べてコストを最大50%削減できる点を強みに大手企業からの導入を狙っていた。しかし、サービスを運営していく中でバイク便のリプレイスは難しいことに気づく。

「市場規模も200億円ほどと大きくなく、大手企業も月次で数千万円ほどしかバイク便にコストをかけていない。経費の中で占める割合は大きくなく、年に一度見直しの会議があるかないかだったので、スピード感を持って進めるのは難しいと思いました」(吉兼氏)

全国1万台以上の配達パートナーと配送管理システムを提供

そこから、さらに事業内容をピボット。「(コロナ禍で需要が増えていた)フードデリバリーのように、今すぐに商品を届けたい配送、オフィスや店舗間の企業内配送などの当日配送にフォーカスすることにしました」(吉兼氏)という。

それらの必要とされる配達パートナーの獲得から稼働管理までを一括で構築するほか、既存配送網の配送管理コストの削減や配送効率の改善も図れる現在のかたちに行き着いた。