資金調達“バブル”は崩壊、不況下におけるスタートアップの生存戦略とは?

景気が拡大する中で需要が高まり、その結果としてインフレが行き過ぎることを抑制するために金融を引き締めるのであればいいと思う。だが、今回は前述した通り、必ずしも需要が過熱しているのではなく、エネルギー価格や資源・食料価格が上昇したことがインフレの主な要因だ。金融引き締めが行き過ぎて必要以上に景気を冷ましてしまう恐れがある。いわゆる「オーバーキル」という現象だ。そうなれば、不況を避けることはできない。

不確実性が高まる世界

この数年を振り返ってもコロナ禍、ウクライナ侵攻、世界的なインフレ、世界同時引き締めなど、事前に想像できなかったようなことがいくつも発生した。不確実性が高まっている。おそらく、この記事が出てから半年以内にも、何かしらの予期せぬイベントが起こるのだろう。不確実性が高まっているにもかかわらず、全ての土台となる経済状態までもが悪化していく可能性が高いとなると、企業経営者は現状認識を大きく変えていく必要が出てくる。

コロナ禍による不況が一般的な不況とは違ったのは、すべての業種で業況が悪化したのではなく、一部の業種で大きく業況が悪化する一方、異なる業種では追い風が吹くなど、業種ごとに明暗が大きく分かれたことにある。

コロナ禍で追い風を受けていた業種のスタートアップ企業の経営者と話していると、比較的楽観的な事業計画を持っている人が多く見受けられた。だが、これまで書いてきたような悲観的なシナリオが将来待ち受けているとすれば、やはり事業計画を練り直す必要がありそうだ。

バズワードを掲げれば資金が集まる「宴」は終わり、正常化へ

筆者自身も複数社のスタートアップ企業の経営には参画しているが、ここ数年の資金調達環境は明らかに異常だった。スタートアップ企業のCFOという立場では良い環境だったのかもしれないが、経済アナリストの観点からすると異様に高いバリュエーションが正当化されすぎていて、いわゆる“バブル”であると常に危機感を覚えていた。

AIやFinTechなどのバズワードを盾にすれば赤字が正当化され、赤字であるという理由でPSR(株価売上高倍率)を基に企業価値を算出して全くもってロジカルとは思えない株価を基に巨額の資金調達をしている企業を数多く見てきた。

単純に筆者がそれらの企業が抱えている成長ストーリーを見抜けていないだけなのかもしれないが、異様に高いバリュエーションのまま上場した企業は軒並み公募価格を大幅に下回っており、いわゆる「上場ゴール」の状態になっている。