未公開のうちに出資した投資家たちが信じた成長ストーリーを、少なくとも上場株を触る百戦錬磨の投資家たちは信じていないということだろう。

世界的に不確実性が高まる一方で、カネ余りの状況が終われば当然ながら宴は終わり正常化へと向かっていく。宴の間はバズワードを掲げてキラキラしていれば多額の資金は流れ込んできたかもしれないが、宴が終われば投資家も冷静になり、実体のないスタートアップへの投資は控えるはずだ。宴が終わったあと、さらに不況が来るとすれば、これまでとは景色が激変するはずであり、ここ数年の価値観のままスタートアップ企業を経営するのは危険すぎる。

実態を磨き上げることが一番の勝ち筋

起業して事業を伸ばしていくなかで、どんどん従業員を増やして、オフィスも毎年大きくなる。あわせて資金調達を繰り替えして、いずれは上場する。多くの経営者が描く夢かもしれないが、宴の後の不況下では夢だけを見ずに足元をしっかりと固めることが重要だろう。筆者が保守的な性格であるため、ここは自分でもバイアスがかかった意見だと自認しており、読者には割り引いて読んで欲しいとは思う。だが、やはり事業で稼いで黒字額を毎年積み上げていくような計画を立てて、着実に事業規模を拡大していくことがよいのではないか。

数年前に保守的な筆者に対して「スタートアップ企業はとにかく赤字を掘ってサービスやプロダクトを磨き上げて数年後に一気に高成長を実現すればいい」と言い、資金調達を繰り返していた経営者がいたが、そのスタンスを今後も貫くのは至難の業と考える。

どこの世界でも全く同じだが、戦場で長く生き残ることが重要なのだ。不確実性が高く、時代の流れが激変しているからこそ、自社が確実に勝てる局面が来るまでは愚直に成長をして待つ。そして、風が吹いた時に大きく飛び立てばよい。宴が終わろうと、不況になろうと、投資家は常に高い期待リターンを求めている。どのような局面でも高い期待リターンの源泉になるのは企業の実態だ。結局は不況下であっても小手先のテクニックで誤魔化すのではなく、実態を磨き上げることが一番の勝ち筋なのであろう。