子会社設立にみるApple「BNPL参入」の背景

「意外だったのはわざわざ子会社を作り、貸付の領域まで自分たちでやる計画をしていることです」

伊藤氏はApple Pay Laterの発表の印象をそのように話す。Appleは以前から米国でクレジットカード「Apple Card」を展開しているが、同サービスの場合はタッグを組むゴールドマン・サックスが引受機能(審査やローンの貸し手の役割)を担っていた。

当初はApple Pay Laterについても同じような形式での提供が噂されていたが、実際はAppleが子会社のApple Financingを立ち上げ、自ら引受機能を担うことを明らかにした。Appleは3月に与信審査モデルを持つ英・Credit Kudosを買収しており、この技術を活用する可能性が高い。

「今回発表された“6週間4分割”のサービスは分類的に『後払い』と言われるもの。日本でも米国でも規制適用外であり、特定のライセンスがなくても提供できます。にもかかわらず子会社を作り、ライセンスを獲得する方針が明らかになっている。今後は別のソリューションも計画していることは明確です」(伊藤氏)

伊藤氏の見解はこうだ。Appleはまず、6週間4分割タイプの後払いサービスを金利ゼロで提供する。同様のサービスはすでにAfterpayやKlarnaなどが展開しているが、Appleとしては新たな選択肢の1つとして名乗りをあげることが重要になるだろう。

そして次のフェーズではAffirmが提供する貸金に近いモデルで、金利を得るサービスにも参入する。そこで最初に期待ができるのが、自社製品の分割払いによる購入だ。iPhoneを始めとするApple製品を購入しやすくする仕組みとしてApple Pay Laterを提供し、結果としてさらなる購買を促す。そのようなエコシステムの確立も構想にあるのではないかという。

WWDC 2022では「Apple Pay Later」の仕様なども明かされた
WWDC 2022では「Apple Pay Later」の仕様や画面なども明かされた。画像はWWDC 2022のYouTubeより

既存プレーヤーへの影響、ポイントはオフラインでの決済

主要な既存事業者への影響はどうか。今回の6週間4分割タイプのサービスに関しては、特に影響を受ける可能性があるのがAfterpayだ。同様のサービス自体はKlarnaやAffirmも手掛けているが、Afterpayは後払いの中でも6週間4分割タイプのサービスに注力しているからだ。

今後のポイントになりうるのがオフラインでの決済だ。BNPLはEC(オンライン決済)を中心に拡大した仕組みで、現時点ではECでの利用の割合が大きい。既存プレーヤーはすでに大手EC事業者と独占契約を締結しているケースも多く「後発のAppleが決済額が大きいEC事業者を今から獲得するのは簡単ではない」と伊藤氏は話す。