また評価額でなく、調達額が10億ドル以上の企業を「ミノタウロス」と表現するなど、別の基準でスタートアップを区分する言葉も登場している(ミノタウロスはギリシア神話に出てくる牛頭人身の怪物)。

ARRが1億ドル超の企業を表すケンタウロスも、ユニコーンに代わるスタートアップの呼び名のひとつとして現れた(ケンタウロスもギリシア神話に登場する、半人半獣の種族名)。2010年代半ばごろには投資家たちの間で、ケンタウロスという言葉がARRではなく「評価額1億ドル超」のスタートアップを表す言葉として使われていたようだ。

ケンタウロスが投資家に注目される理由

ケンタウロス企業が注目されているのは、なにも「ユニコーン企業がありふれた存在になったから」という理由だけではないようだ。

5月10日、米国のベンチャーキャピタル・Bessemer Venture Partners(BVP)が最近のSaaSの現状をまとめた「State of the Cloud 2022」を発表した。

前項でも述べたとおり、世界には1000社以上のユニコーンが存在しているが、その多くは売上高が100万ドルに満たない。BVPは「豊富な資本はバリュエーション(評価額)がやや意味を失うような環境をつくり出した。今やユニコーンについて我々が言えるのは、彼らが『投資家の関心を集める能力を持っている』ということだけだ」と痛烈にコメント。「“ユニコーンへの野心”は残念ながら、多くのスタートアップや投資家が優れたビジネスの構築ではなく、評価額を第一目標とするように仕向けている」と述べている。

また、ユニコーン誕生の数と公開株の株価には相関があるとも、BVPは指摘する。ウクライナ侵攻、欧米の金融引き締めなどの影響で株価が下落し、リセッション(景気後退)の懸念が高まる中、「VCや創業者コミュニティは(評価額ではない)新たなマイルストーンを必要としている。それはきちんとした根拠やプロダクトのファンダメンタル(基本的な指標)、そしてあえて言うなら『利益』に基づいたマイルストーンだ」とBVPはいう。

収益重視はSaaSエコシステムの健全化につながるか

現在、1000社超のユニコーンに対して、ケンタウロスは世界でも150社程度で、その数は7分の1程度だ。BVPは、SaaSスタートアップ界において「2022年はケンタウロスの年になる」と予測する。

BVPの調査では、過去4年、毎年誕生するケンタウロスの数は着実に増えている。2019年には35社、2021年には60社のケンタウロスが登場し、2022年には70社がケンタウロスとなると見られる。2021年にケンタウロスとなった企業には、プロダクト分析ツールのPendoや、セールスエンゲージメントツールのSalesloft、画像・動画管理のCloudinary、オンラインホワイトボードのInVision、レベニューAIの6sense、EC支援プラットフォームのYotpo、AIプラットフォームのDataikuなどがある。このうちCloudinaryは、資金調達することなく1億ドルのARRを達成している。