世の中の役に立つ方法

サム:今、世の中の役に立ちたいと思っている人たちは、博士号を取得すべきだと思いますか。

イーロン:ほとんどの場合、そうではないでしょう。

サム:どうしたら、自分が世の中の役に立つ方法を考えられるのでしょうか。

イーロン:作ろうとしているものが何であれ、現在の技術水準と比較した場合にその有用性がどれだけ向上するか、それがどれだけの数の人々に影響を与えるかを考えます。少人数から中程度の人たちにでも、大きな影響を与えるのは素晴らしいことです。小さな変化であっても、膨大な数の人に影響を与えるものを持つことも素晴らしいことだと思います。

サム:SpaceXの例を挙げましょう。実際にそれをやろうと決断したとき、当時はとてもクレイジーなことでした。

イーロン:確かに、最高のリターンを達成することが目的なら、会社を設立すること自体がクレイジーです。しかし、それは私の目的ではありませんでした。私は、ロケット技術を向上させなければ、永遠に地球から出られないという結論に達したのです。しかし、航空宇宙産業の大企業は、根本的な技術革新には全く興味がありませんでした。彼らがやりたかったのは、自分たちの技術を毎年少しずつ良くしていくことで、実際には悪くなってしまうこともあったのです。

特にロケットはかなりひどい。1969年に月に行くことができたのに、その後のスペースシャトルは地球の低軌道にしか人を運べず、やがて引退しました。テクノロジーは毎年自動的に良くなると思っている人もいるかもしれませんが、実際はそうではありません。賢い人たちが、より良いものを作ろうと必死に努力することで、初めて良くなるのです。技術というものは、人々が取り組まなければ衰退していきます。

文明の歴史を見てみると、例えば古代エジプトでは、素晴らしいピラミッドを建てることができましたが、その後、建て方を忘れてしまいました。象形文字の読み方さえも忘れてしまったのです。ローマでも、信じられないような道路や水道橋、屋内配管を建設できたのに、それらを作る方法を忘れてしまいました。このような例は歴史上たくさんあります。ですから、エントロピーは自分の味方ではないということを常に念頭に置いておくべきだと思います。

「クレイジーなアイデア」に挑戦する理由

サム:私があなたのことを本当に好きな理由のひとつは、他の人からクレイジーだと言われることに対して、異常に恐れを知らず、進んで行動するところです。私はかなりクレイジーな人たちをたくさん知っていますが、中でもあなたは際立っています。それはどうしてなのでしょう。また、誰もが「これはクレイジーなアイデアだ」と言う中で、どうやって決断しようと考えるのでしょうか。その強さはどこから来るのでしょうか。