今後MantraではマンガAI技術の研究開発とLangakuの開発を加速させていく計画。そのための資金として集英社、東京大学協創プラットフォーム開発、ディープコア、コンコードエグゼクティブグループ、ツクリエを引受先とする第三者割当増資により約1.5億円を調達した。

人と機械のハイブリッドで翻訳を効率化、ウェブトゥーンなどにも対応

Mantraは東京大学の情報理工学系研究科で博士号を取得した2人の研究者が立ち上げたスタートアップだ。代表の石渡氏は自然言語処理領域、共同創業者でCTOの日並遼太氏は画像認識領域が専門で、お互いの知見をかけあわせてMantra Engineを開発した。

マンガに関しては特殊なフォントや独特の話し言葉、絵とテキストの不規則な配置、ストーリーの背景にある複雑な文脈など翻訳の難易度を上げる要素がいくつも含まれている。

そこでMantraでは画像認識技術や機械翻訳技術をもとにマンガに特化した翻訳システムを構築。その技術を軸として、クラウド上で効率的に翻訳業務を進められる仕組みを作った。

「Mantra Engine」による翻訳作業のイメージ
「Mantra Engine」の画面イメージ ©︎朽鷹みつき

Mantra Engineではシステム上にマンガの原稿データをアップロードして、タイトルや翻訳したい言語を選択すると自動翻訳が始まる。翻訳者はこの内容をベースに修正や校閲を進めていく。従来のワークフローと比較して約半分の時間で翻訳版が制作できたような事例もあるそうだ。

Mantra Engineはコラボレーションツールとしての側面も持ち合わせており、複数の作業者がクラウド上で並行して作業ができる。従来は細かい確認作業やフィードバックをするために、WordやPDFなどを何往復もしていたこともあったが、Mantra Engineであればそれが1カ所で済むため無駄が少ない。

お互いの進捗状況もリアルタイムでわかるため「翻訳の管理が楽になる点にも価値を感じてもらえている」(石渡氏)という。

冒頭で触れたファン翻訳の取り組みは、複数人のファンが自動翻訳の内容を基に翻訳作業を重ねていくことで良い作品を作るというもの。ウェブ上で複数人が翻訳者として参加できる仕組みがうまく活用できた事例だ。

「開発した当初は『簡単に編集ができるのでウェブで動く方が良い』くらいのイメージだったのですが、ファン翻訳のように今までのマンガ翻訳とは違う方法を実現できるようになってきました」(石渡氏)

2022年にはウェブトゥーンの翻訳ニーズが増えていることを受け、縦スクロール作品などに対応した新バージョンもリリース。日韓翻訳や中日翻訳など、対応言語の幅も広げている。