「サービスを立ち上げた当初から、事業の成長に向けたもう1段階上のスタート地点として上場を意識していました。日本でも新しいビジネスモデルだったので、『この事業で上場するのであれば持続可能な会社であることをしっかりと証明しなければならない』ということは当時から話していたことなんです」

「事業の準備が整った状態で踏み切るのが良いと考えた時に、自分たちにとっての準備とは何なのか。1つは事業基盤となるオペレーションコストをしっかりとコントロールして、下げていくこと。裏を返すと、お客様お1人当たりの限界利益をしっかりと高めていくことです。(1人あたりの限界利益と会員数をかけ合わせた)トータルの限界利益が固定費をしっかり賄うかたちをとれれば、かなり安定した収益体質が作れると考えていました」(天沼氏)

悩みながらも今「上場」に踏み切った理由

2021年に、1人当たり限界利益や1配送当たりオペレーションコストが上場を目指す上で思い描いていた水準に達したことが大きな転換点になった。

「この事業を継続していく中で、月額会員のお客様がこのぐらいの規模感になれば、これぐらいの利益が生み出せるといったことが読みやすい状態になった」(天沼氏)ことで、さらなる成長に向けて上場への意識が一層高まったという。

一方で、今上場に踏み切るべきなのか。タイミングについては天沼氏もものすごく悩んだ。

「昨年の12月以降は市況が悪化しており、ロシアによるウクライナへの侵攻やコロナウイルスの蔓延などの影響もあって、ファッション業界には大きな逆風が吹いています。もちろん当社にもネガティブなインパクトがあり、それを踏まえた時にどうするべきなのか。正直なところ、ものすごく葛藤もありました」

「それでも上場に踏み切ったのは、創業期から『事業基盤がしっかりと整ったタイミング』が上場のタイミングだと決めていたことが大きな理由です。もちろん市況は当時の想定と違うのですが、(事業基盤などに関しては)想定していた姿に近い。それを踏まえた時に、あえてタイミングを変えるのではなく、上場に向けて進んでいこうと決めました」(天沼氏)

エアークローゼットの業績推移。先行投資により純損益は赤字の状態での上場となる
エアークローゼットの業績推移。先行投資により純損益は赤字の状態での上場となる。エアークローゼットの事業計画及び成長可能性に関する事項より

上場の主な目的は、これからさらに事業を広げていく上での「信用信頼の獲得」と「資金調達」だ。市況の影響で時価総額が想定よりも低くなると、当然ながら調達できる金額も変わってくる。ただ現在の事業の状況なども踏まえ、天沼氏は「(2つの目的が)十分に達成できると感じた」という。