スタートアップと組んで、若い世代・グローバルにアプローチする

──松竹ベンチャーズを立ち上げた経緯を教えてください。

松竹は演劇と映画、不動産の3つの軸をメインに事業を展開し、成長を遂げてきました。創業当初は20〜30代の若い世代を対象に歌舞伎などのコンテンツを提供してきたわけですが、時代の流れとともにメインの顧客層の年齢も上がってきた。日本の人口動態を見たときに高齢者の割合は年々増えていますが、そこに依存していては“ジリ貧”になっていくだけです。グローバルに打って出たり、今の若い世代にアプローチしていかなければいけない。

これまでにも、新規事業の立ち上げなどには取り組んできました。歌舞伎×人気IPという切り口で『ワンピース歌舞伎』を開催したほか、観光と演劇が同時に楽しめる“没入型”街歩き公演『シアトリカルツアー』などをやってきました。

そうした取り組みがうまくいかなかったわけではないのですが、(テクノロジーなどの)変化のスピードが早い時代においては自前主義ではなく、新しいアイデア、新しいサービスを持っている人たちと一緒に何か取り組みを進めた方がいいのではないか。

大企業との連携という点においては、NTTグループと一緒に歌舞伎とボーカロイドを融合させた『超歌舞伎』も実施してきましたが、スタートアップに関してはこれまで何もなかった。

松竹が掲げる「日本文化の伝統を継承、発展させ、世界文化に貢献する」「時代のニーズをとらえ、あらゆる世代に豊かで多様なコンテンツをお届けする」というミッションを実現するには、スタートアップへの投資や事業の共創もやっていかなければいけない。そうした意識から、新たに松竹ベンチャーズを立ち上げることになりました。

──松竹は100年以上の歴史がある会社です。CVCを立ち上げるハードルも高い気がするのですが、どのように社内を説得したのでしょうか。

社長の迫本(代表取締役社長の迫本淳一氏)にもスタートアップに関する取り組みを進めていこう、という考えが少し前からあったんです。例えば、松竹は2018年の「DRONE FUND2号」へのLP(有限責任組合委員)投資をきっかけに、(DRONE FUNDも含めて)3件ほどLP投資を実行してきています。そうした背景もあり、CVCの立ち上げの話自体は自然な流れで進んでいきました。

当初は2020年ごろに立ち上げの予定だったのですが、コロナ禍の影響もあり、結果的にこのタイミングでの立ち上げになりました。もともと、従来のやり方だけでは厳しいと思っていましたが、コロナ禍で「もっと大変なことになるな」と痛感しました。