スタートアップ業界と芸能界の共通点は「村社会」、だからこそ大事なこと

──CVCを立ち上げる前に、松竹の社員をVC(編集部注:DRONE FUNDやANOBAKAなど)に出向させています。

CVCを立ち上げるにあたって、最も大事だと思ったのが「マインドセット」です。スタートアップの人たち、VCの人たちがどんな考えで仕事をしているのか。まずはそれを知ることが重要だと思い、LP投資のタイミングでVCに人材を受け入れてもらっています。

私は過去に松竹芸能の社長を務めていたことがあるのですが、スタートアップ業界と芸能界は少し似ていて、“村社会”っぽいところがある。村社会においては、その村の人たちのやり方やマインドセットを知り、経験を積んでいくことが大事になります。

私たちは演劇や映画の業界でのキャリアは長いですが、スタートアップ業界においては全くの素人。いわゆる新参者です。まずは仕事のやり方やマインドセットを学ばなければ話もしてもらえないという思いもあり、マインドセットを学ぶために社員を出向させました。

また、松竹はモノづくりをする人たちの育成システムは出来上がっていますが、新規事業を立ち上げる人材の育成システムは出来上がっていなかった。社員を出向させることで、スタートアップやVCから、そのあたりのノウハウも学べるという考えもありました。

──昨今、CVCは数多く立ち上がっていますが、CVCは現場との温度感がズレているという話も耳にします。出向の仕組みで、現場の温度感を知るのは珍しいと思いました。

松竹は2019年に一度アクセラレータープログラムをやったのですが、その際に若手の社員が「良い業者が増えますね」と言ったのです。私はすぐに「業者ではない、パートナーだ」と言い直させました。“業者”という言い方は、相手のことを低く見ている。そのマインドセットがあっては絶対にCVCなどの取り組みは成功しないだろう、と思います。

私たちは偶然、長きにわたって事業をやっており、会社の規模も大きいかもしれないですが、スタートアップの人たちは私たちが持っていないものを持っている。逆に私たちはスタートアップの人たちが持っていないものを持っている。それらのアセットを組み合わせることで、新しいサービスやコンテンツを生み出していけるだろうと思っています。

また、松竹ベンチャーズは20〜30代の若手メンバーにも一定の権限を持たせることも重視しています。例えば、若手の森川(森川朋彦氏、年齢は34歳)を取締役・常務執行役員にしていますが、役職を与えることで先方も「真剣に話そう」と思ってくれますし、メンバー自身も自ら考えて意思決定するので成長スピードも早くなる。若手メンバーをどんどん増やしていかないと、(スタートアップとの)話が合わないことも増えてくると思うので、若手メンバーの抜てきは今後も力を入れて取り組んでいきたいです。