「今の若い人の価値観では、転職する選択肢を失って会社にしがみついている人を見ると働くモチベーションが下がってしまう。会社に居続けるとしても、いつでも転職できる状態で残っておきたいという思いが強い」(寺口氏)

収入減よりも得られるものと働きがいを選ぶ

大企業からスタートアップへ転職する人たちの出身業界はメーカー、IT、商社、金融、コンサルティングファームなど多種多様だ。

 

ONE CAREER PLUSには、トヨタ自動車から製造業のマッチングプラットフォームを提供するキャディへ、日本放送協会(NHK)から名刺の電子データ化サービスなどを提供するSansanへ、ベネッセコーポレーションからAI教材を提供するatama plusへ、ファーストリテイリングからSaaS事業を展開するFLUXへ──ONE CAREER PLUSに投稿される体験談には、このような「大企業からスタートアップ(上場企業含む)への転職」の事例が多数投稿されている。

 

魅力的な転職ができるならば、収入減になることもいとわない人が多いというのも特徴だ。ONE CAREER PLUSが大企業からスタートアップに転職した89人に対して21年12月に実施したアンケート調査では、転職後に年収アップした人の比率は38%で、62%はダウンまたはキープとなっている。「年収アップした人も入社数年後に報酬が増えて前職を超えたケースが多く、いわゆる大企業からの転職時のオファー年収は年次次第ではダウン提示も覚悟が必要なのは変わらないが、目先のみで判断されない方が増えていると言える」(長谷川氏)だという。

平均では、およそ40万円の年収ダウン。それでも大企業よりもスタートアップで得られる経験やスキルの方が良いと判断しているのだ。

入社後、どの部署に配属されるかわからず、その業務が自分のスキルに繋がるのかわからない大企業に対して、スタートアップは求められるスキルセット、与えられるポジションと業務内容、期待する成果、得られる個人の成長とやりがい、事業の成長により解決する社会課題なども明確だ。また会社のビジョンと自分のキャリアのビジョンがリンクしている場合が多く、スピードも早い。「自分のキャリアのストーリーを描きやすいところが魅力」(寺口氏)なのだという。

ビジネスモデルが多様化し、求める人材も多種多様に

また、スタートアップが求める人材のスキルセットも多様化している。「これまでのスタートアップは、SNS、EC、ソーシャルゲーム、メディアなど、BtoCのIT企業が多かったが、昨今は製造、DX、教育、医療などこれまでスタートアップが多くはなかった領域を中心に、BtoBのスタートアップも非常に増えている。そうしたスタートアップでは、事業ドメインの知識や業界特有のオペレーションに関する理解を持った人も求めている。そのため、大企業でBtoB事業を行っていた人でも、自分のキャリアと地続きでスタートアップの求人が見つかるようになった」と寺口氏は語る。