ここ1年くらい、比較的大きなM&Aにも取り組むようになり、自分自身も社外取締役や投資家の皆さんにだいぶ鍛えられました。僕は学生起業後に別のスタートアップで新規事業の立ち上げを経験し、その次がBitStarの創業と、スタートアップ界にどっぷり浸かってきた人間ですが、ここに来て大人の経営を学ばせていただいています。

ただ、最近は投資家の皆さんにとっても、これまでの実績が安心材料になっていると思います。M&AしたD2C事業の売上はジョインから2年で約2倍、コンテンツ事業は1年弱で約1.3倍になっていますから。

M&Aの高値づかみ、避ける方法は組織体制を含めた「仕組み化」

及川:何がそれだけの急成長を可能にしているのでしょうか。

渡邉:M&A以前に自社内でも事業間でシナジー創出を追求してきた経験や、今まで培ってきた経営のノウハウを応用できたことが大きいと思います。

及川:やはり、そこですか。M&Aで高値づかみと言われるようなケースでは、特にクロスセルの部分で、事前に想定した効果を挙げられていないことが多いんです。そうした場合、そもそも買い手の社内でも、クロスセルがうまくいっていなかったパターンが多いのかなと。BitStarさんがクロスセルで成功してきた秘訣は何でしょう。

渡邉:これは組織体制を含む「仕組み化」に尽きると思います。僕はエンタメ業界には珍しい理系出身で、物事を構造的に考えるタイプなんです。号令だけ掛けても、現場がなかなか動かないケースってありますよね。そんなときは組織をガラッと変えてみたり、インセンティブをつけてみたり。まずはアクションを起こし、PDCAを回すことを積み重ねてきました。

たとえば、最近は「ショート動画」(スマートフォンでの視聴を前提とした短尺の動画)のニーズが伸びており、当社でも注力領域として、部門間連携を促してきました。ところが実際には思うように進まず、聞けば現場にはそれぞれの事情があるんです。営業にとっては、通常のYouTube動画の方が売上単価が高いので、ショート動画を売るインセンティブは弱い。コンテンツ制作のプロにとっても、スマホで簡単に作成できるショート動画には、作る意欲がわかない。

そこで、これは仕組みから変えるしかないと。既存の組織との機能の重複にはいったん目をつぶり、各部門からショート動画の担当者と機能を集めて、新組織をつくることにしました。新規事業の立ち上げが得意な役員をショート動画領域のトップに置いたところ、四半期ベースで倍々で成長したんですよ。